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10話

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アポロは鼻歌交じりに屋根を足場に跳躍を繰り返す。

この様な奇怪な街での移動方法を行うものはほとんどいない。

風の魔法に精通している魔法使いが「飛翔」の呪文で移動することは可能だが移動距離に少なく無い魔力を消費する為、よっぽど急ぎでない限り街中を飛ぶ事はない。

人や馬車が行き交う大通りや複雑に入り組んだ裏路地を進むよりも屋根伝いに移動した方が楽だなぁと新しい発見をしたアポロ。

「師匠が『時は金なり』って行ってたのはこの事なのかな?」

確かにあっているのだがその移動方法が取れる者は早々いない。

前方に目的の看板が見えアポロは招き猫本社の裏にある中庭に着地する。

昼飯の時間帯ということもあり、数人の招き猫の社員と思われる人が突然の着地音と来訪者に驚愕していた。

空から降って来た。深い緑の塊、立ち上がったそれは白銀を靡かせる可愛らしい中性的な子供に見えた。

先ほどの驚きを通り越して朗らかな顔をしている社員もいる。

誰一人として悲鳴をあげる事なく土埃を落とし身だしなみを整えるアポロを微笑ましく眺めていた。

しかし、ほどなくしてほんわかした空気をぶち壊す。金属の擦れる音が聞こえ始める。

その音の主は一人のアポロより少し背の高いフルプレートの女性であった。

顔は隠れていて分からないが胸部の膨らみに合わせて調節された鎧の形状はオーダーメイドのなすところでろう。

一目みるだけで高額なフルプレート装備をしている割には動きがおぼつかない。恐らく中の人はその重さに慣れていないのだろう。

彼女はアポロのもとにたどり着くまでかなりの時間を要した。

荒い息がフルヘルメット越しからでも聞こえてくる。

彼女は息を整えてからアポロに向かって言い放つ。

「そこの不法侵入者大人しくしなさい。この英雄予定のペルシャ・ローラが成敗してくれる」

ローラはフルプレートの重さに耐えながら胸を張り、細身のロングソードの剣先をアポロに向ける。

しかし、残念ながらロングソードの剣先がプルプルと震えいまの体制を維持するのがやっとの様だ。

周りがはらはらと固唾を飲んでいる中。

アポロはそんなローラの心境を読むこともできず、必死に弁明する。

「あわわわわ……すいません着地しやすそうなスペースがあったので勝手に入ってしまいました。実は私の師匠から手紙を渡されてまして、こちらにいるペルシャ・ローレンスさんに渡したいのですがご在宅でしょうか?」

挙動不審な行動に言動、ローラは到底アポロの話を信用することができなかった、そんな時たまたま通った初老の男性が本社裏口から出て来た。

隣には秘書なのであろう。メガネをかけて背筋のピントした男が鋭い眼光でアポロを見て即座に行動を移す。

「代表この少年只者ではありません。お嬢様も早く離れてください」

秘書の男の言葉を聞き、フルプレートの女性は慌てて距離を置こうとするが鎧の重さでバランスを崩し後ろに倒れそうになる。

「おっと危ないですよ」

アポロは尻餅をつきそうになるローラの背中と膝を支え持ち上げる。

結果的にフルプレートの女性をお姫様抱っこするという異様な光景が中庭の一角で生まれた。

「おっもしやお主がボッターの言ってたアポロくんかな?」

「あっはい。ボッター師匠からこの街に来たら必ずローレンスさんに手紙を渡す様に言われて来ました」

彼女を抱えたまま話を始めるアポロ。

「おぉそうかそうか……それでは応接室でお茶でもしながら手紙を拝見させてもらおうかな」

何事な無かった様に移動し始めようとした時、目の前でぼそぼそと声がした。

「あのそろそろ下ろしてくださらないかしら?」

目の前のフルプレートのローラがボソボソと声を出した。

「すいません。すぐ下ろしますね」

その後アポロと初老の男、秘書とフルプレートの女性が応接間に移動した。

応接間は一方が10メートルとかなり広く少人数の商談では十分な広さであった。

中央には正方形の背の低い机に革張りのソファーが置いてあり、壁には絵画や花瓶が置いてある。

結成て派手なものではないが、その場にあった落ち着いた雰囲気の調度品であった。

アポロにはその価値は分からないがきっと高価なもので揃えられていることだけは素人目でも何と無くわかった。

ローラはローレンスの護衛のつもりなのだろう。ロングソードをつかに入れたまま前にたて仁王立ちをしている。

秘書の男性もアポロが不審な動きをした時に対処できる様に鋭い眼光でアポロを見定めていた。

アポロは早速ボッター師匠からもらった手紙をローレンスに渡す。

ローレンスは文面を見たところ少し動向を大きくした後、秘書に耳打ちする。

秘書の男は教会の儀式で使った物よりもひとまわり小さい水晶を取り出し机に置いた。

「ボッターも面白い弟子を拾ったもんだ。アポロくん悪いがこの水晶を持ってはくれないか?」

アポロが水晶に触ると成人の儀式と同じ様にいくつもの光が出た後恩恵の結果が水晶に写った。

ローレンスは恩恵の結果を確認した後、腹を抑えて笑い始めた。

「これは冗談だと思ったら本当だった。アポロくん悪いことは言わない商人ではなく冒険者や傭兵になりなさい。その道なら君に敵うものはもはやこの街にはおらんだろう」

ローレンス笑顔を絶やさなかったが、その瞳はまっすぐとアポロを見据えていた。

「いえ、私はボッター師匠の様な人々を助ける立派な商人になりたいのです。商人には全く役にたない恩恵でしたが、自分の夢を諦めるつもりありません!」

アポロの信念に燃えた瞳を見てローレンスはローラを見て話す。

「まさか私の娘とおんなじ言葉を聞くとは思わなかった……
もしよかったらうちの娘をお前さんの商会の護衛役に雇ってくれないか?きっと役に立つぞ」

「なっ何を父上世迷い言を言っているのですか?」

ローラは焦り出す。

「ローラの恩恵は『目利き』『高速演算』『瞬間記憶』だ。お前さんとはいいパートナーになると思うぞ」

思いがけない提案に目を白黒させるアポロとローラであった。
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