悲恋の大空

暴走機関車ここな丸

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第2傷『心青』

第11話「火炎ボール」後編

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 学校も終わり、私はひとりで歩いて下校していた。



[朝蔵 大空]
 「はぁ……」



 はぁ、結局例の仁ノ岡くんには出会えないし。


 もうダブルデートは諦めるしかないのかな。


 まあ……急ぐ事は無いよね?


 そう考えていた時だった。





 キー……キー……。





[朝蔵 大空]
 「……?」



 公園の傍を通り掛かった時、金属の擦れるような音が微かに聞こえてきた。


 私はその音で一旦足を止め、公園内を見渡す。



[朝蔵 大空]
 「…………ん?」



 そしたらブランコで立って漕ぐ人の影が見えた。


 で、その人影は私が絶対見た事のある人で……。



[仁ノ岡 塁]
 「……」



 え!あれ、仁ノ岡くんだよね!?


 制服姿でブランコに乗る仁ノ岡くんがそこに居た。



[朝蔵 大空]
 「仁ノ岡くん!」



 私は公園に入り、仁ノ岡くんに近付きそう声を掛けた。



[仁ノ岡 塁]
 「あ……」


[朝蔵 大空]
 「な、何してるの……?」


[仁ノ岡 塁]
 「……っ」



 こちらに気付いた仁ノ岡くんはブランコから降りて、その場から立ち去ろうとする。



[朝蔵 大空]
 「ま、まっ……」


[仁ノ岡 塁]
 「……?」


[朝蔵 大空]
 「待って……」


[仁ノ岡 塁]
 「あ、え……」



 仁ノ岡くん、この前会った時と雰囲気が違うような気がする。


 私とあまり目を合わせてくれないし。



[朝蔵 大空]
 「……?少し話さない?」


[仁ノ岡 塁]
 「うん」



 ……。



 私と仁ノ岡くんは、隣合ってブランコに座る。



[朝蔵 大空]
 「今日もしかして、学校……来ようとしてたの?」



 私は仁ノ岡くんが着ている制服を見ながらそう話し掛ける。



[仁ノ岡 塁]
 「来いって言ったんじゃないのか」


[朝蔵 大空]
 「え……わ、私?」



 もしかして不尾丸くんが言ってくれたのかな?



[仁ノ岡 塁]
 「……」



 仁ノ岡くんは静かに頷いた。



[朝蔵 大空]
 「あの、聞いても良い?学校来ない理由」


[仁ノ岡 塁]
 「え?」


[朝蔵 大空]
 「あ、嫌かもしれないけど、話すの……」



 私は頑張って微笑みを作り、保険をかける。



[朝蔵 大空]
 「に、仁ノ岡くんにも色々あると思うし、無理して話さなくても良いから」


[仁ノ岡 塁]
 「いい」


[朝蔵 大空]
 「んぇ?」


[仁ノ岡 塁]
 「別に話せる」


[朝蔵 大空]
 「あ……どうぞ」



 私は仁ノ岡くんが話し始めるのを待つ。


 この子、こんな真夏なのに長袖のシャツ着てるけど、暑くないのかな?


 まさか、日焼け対策?


 袖のボタンまでしっかり止めてるし。



[仁ノ岡 塁]
 「……」


[朝蔵 大空]
 「ど、どうした?」


[仁ノ岡 塁]
 「待て、話す事をまとめている」


[朝蔵 大空]
 「あ、はいっ」



 喫茶店で接客してもらった時と全然違うじゃんこの子……。



[仁ノ岡 塁]
 「まず第一に、俺は学校と言うものが嫌いだ。人が多いのも好かない」



 ありがちな理由だけど……この話し方は何?


 もしかしたら、気にしたら負けかな……。



[朝蔵 大空]
 「な……なんで嫌いなの?」


[仁ノ岡 塁]
 「愚かな人間しかいないからだ」


[朝蔵 大空]
 「愚か?」


[仁ノ岡 塁]
 「そう、愚かだ。騒々しくて野蛮、群れていないと何も出来ない大馬鹿者の集まりだ」



 なんだか凄い事になってきちゃったぞ……。



[朝蔵 大空]
 「うん、そうだよね……でも、その大馬鹿者で愚かな人達と混ざって、皆んなでワイワイするのも、きっと楽しいよ!」


[仁ノ岡 塁]
 「何故この俺様が愚民達なんかと無駄な戯れをしないとならんのだ?」


[朝蔵 大空]
 「俺様……」



 仁ノ岡くん、どんどんヒートアップしてない?



[朝蔵 大空]
 「ね、ねぇ聞いても良い?」


[仁ノ岡 塁]
 「なんだ」


[朝蔵 大空]
 「なんで喫茶店でバイトしてる時と口調違うの?」


 『中二病』って言うんだよね、仁ノ岡くんの喋り方。



[仁ノ岡 塁]
 「単なる仮の姿だ、気にするではない」


[朝蔵 大空]
 「お、オーケー……」



 まぁ、今のこの調子で接客してたら普通にやばい人だもんね。



[朝蔵 大空]
 「ねぇじゃあなんであの時は居たの?」


[仁ノ岡 塁]
 「……いつの話だ?」


[朝蔵 大空]
 「文化祭の時」


[仁ノ岡 塁]
 「あぁ、あの日は召使いどもに無理やり連れて来られたのだ」



 め、召使い……?



[仁ノ岡 塁]
 「まぁ、途中で帰ったがな」



 気になるなー、この俺様中二病口調。


 慣れない、慣れたくもない。



[朝蔵 大空]
 「で、でも学校に行かないと、勉強が周りと遅れちゃうんじゃ……」



 学校来てなくて授業出てないとなると、成績とか危ういんじゃないかな。



[仁ノ岡 塁]
 「勉強だと」


[朝蔵 大空]
 「そうだよ、1年は土台の時期なんだから、しっかり……」


[仁ノ岡 塁]
 「少し待て、見せたい物がある」


[朝蔵 大空]
 「え?は、はい」



 私は言われた通りにただ待ってみる。


 そうすると仁ノ岡くんはカバンからファイルのような物を取り出した。



[朝蔵 大空]
 「それは?」


[仁ノ岡 塁]
 「土台だと言ったな?馬鹿にするな」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 私の目の前で広げられる数枚の紙に注目する。



[朝蔵 大空]
 「すごっ!全教科満点!!?」



 そこには、100点100点……100点の赤文字が並んでいた。


 この子顔だけじゃなく頭も凄く良いのね!!



[朝蔵 大空]
 「はえー……」


[仁ノ岡 塁]
 「そのアホ面を辞めろ」


[朝蔵 大空]
 「っ!あぁ、いや……全教科満点取っちゃう人ってほんとにいるんだなーって感心しちゃいまして」



 私今どんな顔してたんだろ、アホ面って……。



[仁ノ岡 塁]
 「ふん、このぐらい容易たやすいものだ。俺様は貴様ら凡人とは違うからな」


[朝蔵 大空]
 「す、凄いねー」



 今、私の口からとんでもない棒読みが出た。



[仁ノ岡 塁]
 「あぁ、俺様は凄いのだ。そうだ、な存在、なのだ」



 これで性格まで良かったらもっと凄かったんですけどねー。


 まぁ、ある意味凄い性格してると思うけど。



[仁ノ岡 塁]
 「……貴様も」


[朝蔵 大空]
 「その、『貴様』って言うの辞めようよ」


[仁ノ岡 塁]
 「貴様も、特別な気がする」



 話聞いてないなーこの子。



[朝蔵 大空]
 「ん?私がどう……特別なんですか?」



 私の今までの人生、地味地味じみじみとしか言われた事ないけど。



[仁ノ岡 塁]
 「話してて感じる。なんとなく」


[朝蔵 大空]
 「そう、なんですね?」



 いや、なんとなくかーい!


 ……あ!!



[朝蔵 大空]
 「仁ノ岡くんってさー、恋愛に興味ある?」


[仁ノ岡 塁]
 「は?なんだいきなり」



 危ねぇ、忘れるとこだった。


 呑気に話してる場合じゃないよ。


 多少強引になってでも、なんとかこのタイミングでダブルデートまで漕ぎ着けたい。



[朝蔵 大空]
 「どうでしょうか?」


[仁ノ岡 塁]
 「お、俺は…………」



 あれ、仁ノ岡くん?


 ほんの少しだけど顔が赤くなってる?



[朝蔵 大空]
 「仁ノ岡くん良かったら私と、ダブルデートしてくれませんか!?」


[仁ノ岡 塁]
 「!?」



 えーい!ダメで元々!!



[仁ノ岡 塁]
 「は、破廉恥はれんちなっ!」


[朝蔵 大空]
 「!!」



 仁ノ岡くんはブランコから勢い良く立ち上がり、私から距離を取る。



[仁ノ岡 塁]
 「だ、騙された気分だ。貴様も所詮、他のいやしい女どもと変わらんと言う事が、今証明された!」


[朝蔵 大空]
 「お、落ち着いて下さい」


[仁ノ岡 塁]
 「これが落ち着いていられるか!俺は帰る、さらばだ」



 そう言って仁ノ岡くんはイライラと怒ったように帰って行ってしまった。



[朝蔵 大空]
 「サラダバー?」



 ……。


 『アサガオこども院』そこはたくさんの孤児が集まる施設。



[不尾丸 論]
 「ただいまー」


[子供A]
 「論お兄ちゃんおかえり!」


[子供B]
 「おかえりー!」



 学校から帰って来た不尾丸に、子供達がぞろぞろと出迎える。



[子供C]
 「論ぃ見て、塁ぃが居るっ!」



 そう言ってどこかに向かって指をさす子供。



[不尾丸 論]
 「えっ」



 不尾丸は、畳に横になってくつろいでいる仁ノ岡の事を見つける。



[不尾丸 論]
 「珍しいな、お前がここに居るなんて。どう言う風の吹き回し?」


[仁ノ岡 塁]
 「……」



 不尾丸の言葉を無視する仁ノ岡。



[不尾丸 論]
 「制服着替えたら?シワになるよ」


[仁ノ岡 塁]
 「……めんどくさい」


[不尾丸 論]
 「ネクタイ落ちてるし」



 不尾丸は杖を着きながら床に落ちている仁ノ岡のネクタイを広い上げ、それを近くのテーブルに置き直す。



[不尾丸 論]
 「お前ほんと生活力無いよなぁ……ほんとに一人暮らしなんて出来んの?」


[仁ノ岡 塁]
 「出来ない」


[不尾丸 論]
 「いや、出来ないんかーい……」


[仁ノ岡 塁]
 「……」


[不尾丸 論]
 「なんかあった?」


[仁ノ岡 塁]
 「いちいち聞くな」



 不尾丸に顔を覗き込まれた仁ノ岡は、仰向けだった体を横に向ける。



[不尾丸 論]
 「学校行けたん?姿見なかったけど」


[仁ノ岡 塁]
 「聞くなって」


[不尾丸 論]
 「何かあったんだね」



 そう言って不尾丸は仁ノ岡が寝ている傍に腰を下ろして座る。



[仁ノ岡 塁]
 「そうだ、あの女と会った」


[不尾丸 論]
 「ん?あの女って?」


[仁ノ岡 塁]
 「朝蔵大空だ」



 不尾丸に背を向けたままそう答える仁ノ岡。



[不尾丸 論]
 「あ、そうなんだ」


[仁ノ岡 塁]
 「変な女だ」


[不尾丸 論]
 「うーんそうだね。でもお人好し……良い人だったんじゃなーい?あの人」


[仁ノ岡 塁]
 「ふん、そうだな」



 微かに笑みを零す仁ノ岡だった。



 ……。



[永瀬 里沙]
 「へぇー!恋愛ぎらい?」


[朝蔵 大空]
 「うん、どうやらそんな感じっぽい」


[永瀬 里沙]
 「そっかー、残念だけどしょうがないねーそれは」



 今は里沙ちゃんと学食で食事をしながら、昨日の仁ノ岡くんについての話をしていた所だ。



[朝蔵 大空]
 「ごめんね!また他の相手探してみるから!」


[永瀬 里沙]
 「うん……いいよそれは別に」



 その時だった。



[???]
 「朝蔵大空!!」


[朝蔵 大空]
 「はい!?」



 大衆が集まる食堂で、私のフルネームを堂々と叫ぶ人が居る!?


 私はびっくりして、持っていたスプーンを落としてしまった。


 代わりのスプーン持って来るの面倒臭い……。



[女子A]
 「あ、あれ!幻のくんじゃない!?」


[女子B]
 「ほんとに存在したんだぁ~、カッコ良い~」



 わー!!


 なんか聞いた事のある声だと思ったら仁ノ岡くんだ!


 学校、来てくれたんだ!



[永瀬 里沙]
 「え!誰よあの1億級イケメン!!?」



 目ん玉が飛び出る勢いで仁ノ岡くんを見つめる里沙ちゃん。



[仁ノ岡 塁]
 「……そこか」



 テーブルに座っている私達を見つけた仁ノ岡くんがこちらに向かって来る。



[永瀬 里沙]
 「こっち来た!ぶひょーーー!!!」



 目ん玉を爆発させて鼻血を吹き出し天井まで吹っ飛ぶ里沙ちゃん。



[朝蔵 大空]
 「あ……里沙ちゃん逝った」


[仁ノ岡 塁]
 「落ちてたぞ」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 先ほど私が床に落としたスプーンを拾い上げてテーブルの隅に置き直してくれる仁ノ岡くん。



[朝蔵 大空]
 「あぁ……ありがとう」


[仁ノ岡 塁]
 「代わりの物を取って来てやろう」



 そう言って、カウンターの方まで足を運んでくれる仁ノ岡くん。



[朝蔵 大空]
 「そ、そこまで!?」



 なんなのこの急な気遣い。


 まさか喫茶店でのバイトの……。



[仁ノ岡 塁]
 「昨晩、熟考の末。貴様の告白を受け入れる事にした。その……これから貴様の事は、"メリィ"と呼ばせてもらう!」



 ほんのりと頬を赤らめる仁ノ岡くん。



[朝蔵 大空]
 「え?」



 え、こんな事あんま言いたくないけど。


 チョロい……昨日のあれはなんだったの。


 って、『告白を受け入れる』って。


 何~~!?





 「火炎ボール」おわり……。
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