悲恋の大空

暴走機関車ここな丸

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第2傷『心青』

第9話「魔の手」後編

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 いつものように裏庭で話している嫉束と笹妬。



[嫉束 界魔]
 「ねー、吉鬼!あのめちゃくちゃ調子乗ってる1年居るじゃん?」


[笹妬 吉鬼]
 「はぁ、誰?」



 笹妬は欠伸あくびをしながら応える。



[嫉束 界魔]
 「もー、原地くんだよ。この前大空ちゃんに公開告白してた!」


[笹妬 吉鬼]
 「あぁ、うん」



 この話題に全く興味が無さそうな笹妬。



[嫉束 界魔]
 「んもーう!吉鬼は相変わらず人に興味無いよねー、大空ちゃん以外には」


[笹妬 吉鬼]
 「は?」


[嫉束 界魔]
 「あの子、裏あると思わない?」


[笹妬 吉鬼]
 「そんなのお前が言えた事じゃない、それに人間誰でも、裏はある……」



 笹妬はそうしみじみと語る。



[嫉束 界魔]
 「そう言うの良いからさ、ちょっとちょっかい掛けてやろうよ、先輩である僕達が調子に乗ってる1年坊主をビビらしてやろう!」



 イタズラ笑顔な嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「えー……お前性格悪ー、ほっといてやれよ」


[嫉束 界魔]
 「良いから良いから、ほら行こ行こっ!」



 嫉束は笹妬の背中を押し、無理やり連れて行く。



[笹妬 吉鬼]
 「……返り討ちにあいそう」



 ……。



[嫉束 界魔]
 「あ、嘘コクの子発見はっけーん!!」


[原地 洋助]
 「は……?」



 原地は嫉束に突然話し掛けられて警戒する。



[笹妬 吉鬼]
 「ごめん」



 笹妬はそう言って嫉束の代わりに原地に謝る。



[原地 洋助]
 「……?なんか用ですか?」


[嫉束 界魔]
 「用って言うか……君!最近大空ちゃんにつきまとってるストーカーくんだよね?」



 原地に直球な言葉で喧嘩を仕掛ける嫉束。



[原地 洋助]
 「はぁ?なんですかいきなり?」



 原地がそんな嫉束を睨む。



[嫉束 界魔]
 「君こそ、急に出て来てなんなのさ」


[原地 洋助]
 (はぁー、めんどくさ)



 心底面倒臭そうな様子の原地。



[嫉束 界魔]
 「君のせいで大空ちゃんが迷惑してるの!悪い事は言わないから、痛い目見る前に引いた方が良いよ!」



 嫉束が喋り切った後、少しの間を置いて……。



[原地 洋助]
 「あ、あのボク……」



 原地は潤んだ瞳で嫉束を見つめる。



[嫉束 界魔]
 「……?」


[原地 洋助]
 「ごめんなさい!ボク……謝りますから、だからもう……怖い事言うのはやめて下さい!」



 原地は大きな声で謝りながら嫉束に頭を下げる。



[嫉束 界魔]
 「な、なんだよ、素直じゃないか」


[笹妬 吉鬼]
 「素直……?」


[笹妬 吉鬼]
 (嫌な予感がする)





 ざわざわ……。





[女子A]
 「ねぇ、あれ酷くない?」


[女子B]
 「先輩が後輩に頭下げさせてんだけど」


[女子C]
 「へぇー、嫉束くんそう言う人だったんだー……」



 周りの女子達が嫉束達の事を見る。



[女子D]
 「ねぇやめなよ、この子泣いてんじゃん」



 その内の勇気のある女子生徒のひとりが嫉束に声を掛ける。



[嫉束 界魔]
 「えっ……」



 嫉束は横から入って来た女子と目を合わせて慌てる。



[女子A]
 「そうだよ!先輩のくせに大人気ないじゃん!」


[女子B]
 「そうだそうだ!」



 次々と声を上げていく女子達。



[嫉束 界魔]
 「ち、違う!この子が毎日のようにある女の子にストーカーしてるから……」


[女子D]
 「原地くんは一途なの!」


[女子E]
 「ストーカーじゃない!」



 また次々と女子達が原地の事を庇っていく。



[女子F]
 「彼女を取っかえ引っ変えしてそうなアンタとは違う!」


[嫉束 界魔]
 「はい?取っかえ引っ変え……?してないけど……」



 嫉束は女子からのまさかの言葉に呆気に取られる。



[笹妬 吉鬼]
 「あれもう、そいつの信者だろ」



 と言い、笹妬は苦笑いをする。



[嫉束 界魔]
 「まさか……HFC……?」


[笹妬 吉鬼]
 「どう言う意味?」



 3つ並んだアルファベットの意味が分からず、嫉束に問い掛ける笹妬。



[嫉束 界魔]
 「『原地洋助のファンクラブ』」


[笹妬 吉鬼]
 「違うだろ」



 笹妬はツッコミつつ我慢出来ずに口から笑いをこぼす。



[嫉束 界魔]
 「は?な、なんで皆んなぽっと出の1年なんかの味方すんの?」


[笹妬 吉鬼]
 「お前多分文化祭の時のでちょっと評価下がってんだよ」



 鋭い考察をする笹妬。



[嫉束 界魔]
 「そんな……自分で言うのも難だけど、天下の嫉束界魔くんだよ!僕ー!」


[笹妬 吉鬼]
 「お前の奇行、結構噂になってるみたいだぞ。って……」


[嫉束 界魔]
 「ど、どう言う事~?『高嶺の花の儚げ美少年』って言うのが僕のコンセプトでしょー?」


[笹妬 吉鬼]
 「……まっ、皆んな。お前の事、ちょっとは身近に感じてくれたって事じゃねーの?」


[嫉束]
 「……!」



 笹妬のその言葉に、嫉束はハッとしたような表情を見せる。



[嫉束 界魔]
 「……ふん、そう言う事にしといてあげる」



 ツンケンしているようで、どこか嬉しそうな嫉束。



[笹妬 吉鬼]
 「もう気は済んだか?」


[嫉束 界魔]
 「全然!あの子マジ性格悪い!」


[笹妬 吉鬼]
 「俺から見ればお前とあの1年ちょっと似てるけどな」


[嫉束 界魔]
 「あれ!?原地くんは?」


[笹妬 吉鬼]
 「居ない……」



 嫉束と笹妬がそんな会話をしている時には既に、原地はその場に居なかった。



[原地 洋助]
 「チョロいなー、先輩方ほんと……楽勝じゃん」


[原地 洋助]
 (でも先輩もやっぱり、可愛くて若い男の方が好きだよね!)



 ……。



 放課後、今日は卯月くんのバイト先に初めて行く。


 卯月くんとリンさん、実は同じ所でバイトしているらしく……。


 喫茶店だったよね?



[原地 洋助]
 「あ!せんぱーい!!」


[朝蔵 大空]
 「……うっ」



 私は後ろから聞こえてくる声を無視して早歩きになる。


 でも早歩きなんかで逃げれる訳も無く……。



[原地 洋助]
 「せーんぱい、待って下さい!」



 あれ、この子里沙ちゃんと同じ水泳部だよね?


 なんで外に出て来てるの……?



[朝蔵 大空]
 「君、部活は?」


[原地 洋助]
 「えっ?良いじゃないですか別に」



 え、まさか部活サボったのこの子?



[朝蔵 大空]
 「……サボる子は嫌いだよ」


[原地 洋助]
 「サボらない子は好きですか?」


[朝蔵 大空]
 「え……うん」



 よく分かんないけど肯定してしまった。



[原地 洋助]
 「ごめんなさい!明日からは絶対サボりません!」


[朝蔵 大空]
 「素直~……」


[原地 洋助]
 「じゃあ付き合って下さい」


[朝蔵 大空]
 「……!!君、何が目的?」



 初めて会った時からそればっかり!



[原地 洋助]
 「大空先輩の彼氏になりたいからです!」


[朝蔵 大空]
 「なんでそうなるの?てか、着いてこないでくれる……?私、この後用事があるから。バイバイ」


[原地 洋助]
 「あ……」



 私は原地くんを置いて走り出す。



[朝蔵 大空]
 「……?」


[原地 洋助]
 「……」



 チラッと後ろの様子を伺うと、寂しそうな目で原地くんをこちらを見つめていた。


 原地くんはその場に立ち尽くして動かない。


 あー、ちょっと可哀想になってしまう。



[朝蔵 大空]
 「……ちゃんと部活行きなよー!」


[原地 洋助]
 「……!!」



 私は原地くんに手を振って、今度こそ卯月くん達のバイト先の喫茶店に向かった。



[原地 洋助]
 「先輩……やっぱり優しい」



 ……。



[如月 凛]
 「いらっしゃいませー!お客様何名様ですか……あっ、ソラ様!」


[朝蔵 大空]
 「あははー来ちゃいましたぁ」



 店に入ると、リンさんが出迎えくれた。



[卯月 神]
 「あぁ、朝蔵さん……」


[朝蔵 大空]
 「卯月くん!」



 わぁい!やっと卯月くんのウエーター姿が拝めた!


 フォーマルな姿もめちゃくちゃカッコ良いね!



[卯月 神]
 「まあとりあえず座って……何か飲みますか?」


[朝蔵 大空]
 「えーどうしよっかなー、卯月くんのオススメでっ!」



 私は一切迷わずそう答える。


 メニューにも触れずに。



[卯月 神]
 「調子良いですね」



 と言って、卯月くんは厨房の方へと入って行った。


 卯月くん、何持って来てくれるのかなー。


 数分後……。



[???]
 「お待たせ致しました、いちごミルクでございます」


[朝蔵 大空]
 「あ……」



 頼んでないやつ……これが卯月くんのオススメ?


 あ、卯月くんが運んで来てくれないんだ……。



[朝蔵 大空]
 「ありが……?」


[???]
 「……はい?」



 あれ、この店員さん……。


 暗めの青い髪に、切れ長の目。



[朝蔵 大空]
 「……?」



 私はその人の胸に付いているネームプレートを見ると、『仁ノ岡にのおか』という文字が見えた。


 仁ノ岡さんって言うんだ……。



[卯月 凛]
 「ルイ様~!お会計お願いしまーす!」


[仁ノ岡 塁]
 「!!あ、はい!失礼します」



 仁ノ岡さんは私に頭を下げた後、すぐにレジの方に飛んで行ってしまった。


 ちょっと待って、あの人絶対どこかで見た事ある!


 いつだったかな……。


 もうちょっとよく顔を見てみよう……。



[仁ノ岡 塁]
 「ありがとうございます、またお越し下さいませ」



 !!?


 ビジュアル爆発って感じ!?


 あのクールな顔立ち、まさに完璧……。


 って、何まともに見とれてんのよ私!



[朝蔵 大空]
 「……」


[仁ノ岡 塁]
 「お客様?」


[朝蔵 大空]
 「あっ」



 そりゃ店員さんの顔まじまじと見てたら何かあったと思われるよね……。


 あーでもほんとにこの人誰だっけ~。



[仁ノ岡 塁]
 「何かお困りですか?」


[朝蔵 大空]
 「あ、いやあの…………私達どこかで会った事ありませんか!?」


[卯月&凛]
 「「!!?」」



 何言ってんだろ私!


 これじゃまるでナンパじゃない!?



[仁ノ岡 塁]
 「え……お客様すみません、今は業務中ですので……あれ」


[朝蔵 大空]
 「……?」


[仁ノ岡 塁]
 「もしかして土屋高の生徒さんですか?」



 多分私の服装で気が付いたのだろう、学校が終わってそのまま来たし。



[朝蔵 大空]
 「はい……」


[仁ノ岡 塁]
 「あ、なら俺も同じですよ。1年です」



 やばい!話続いちゃった。


 て言うかこの子1年なんだ……他の1年生に比べて大人っぽく感じる。



[朝蔵 大空]
 「あ!思い出した」


[仁ノ岡 塁]
 「はい?」


[朝蔵 大空]
 「文化祭の時、お化け屋敷で助けてくれた人ですよね?」


[仁ノ岡 塁]
 「!!」



 この反応、やっぱりあの時の人なんだ!



[朝蔵 大空]
 「あの時は本当に助かりました!お礼が言いたくて……ありがとうございます!」


[仁ノ岡 塁]
 「あ、あぁ、あの時の人?」


[朝蔵 大空]
 「うん!」



 この人、もしかしたら彼女とか居るかもしれないけど……里沙ちゃんに紹介してあげたい!


 だってこの人、絶対里沙ちゃんのタイプ!



[朝蔵 大空]
 「あの!名前、聞いても良いかな?」



 本気でナンパだと思われそー。


 でも、この人なら理想の高すぎる里沙ちゃんの彼氏になってくれそう!


 そして、夢のダブルデートが叶う!!



[仁ノ岡 塁]
 「えっ……?仁ノ岡塁ですけど……」



 相手に名前を聞く時は自分も名乗らないといけないって言う約束があった気がする。



[朝蔵 大空]
 「あ、あのごめん、私は朝蔵大空って言うんだけど……」


[仁ノ岡 塁]
 「朝蔵大空……」



 仁ノ岡くんの口がそこで止まる。



[朝蔵 大空]
 「ん?」


[仁ノ岡 塁]
 「あ、いや……俺の友達?が、よくその名前を出すので……2年の"大空先輩"ですよね?」



 ん?



[朝蔵 大空]
 「え?」



 その『大空先輩』って言う単語、今結構トラウマ気味になってるんだけどね。


 まともな後輩だったら普通、『朝蔵先輩』で苗字+先輩で呼ぶでしょう。



[客A]
 「あのー、すみません」


[仁ノ岡 塁]
 「あ、はい!すみませんお伺いします!」



 仁ノ岡くんはすぐにお客さんの所に走って行った。



[朝蔵 大空]
 「……」



 ちょっと察しちゃったんだけどまさか、原地くんとあの仁ノ岡くんも知り合い?


 なんか、世間って狭いんだなぁ……。



[卯月 神]
 「随分楽しそうでしたね」


[朝蔵 大空]
 「あ、卯月くん!ち、違うんだからねこれは、私じゃなくて里沙ちゃんの恋人候補に……ダブルデートしようって話してたじゃん?」



 乗り気なの私だけみたいだけど……。



[卯月 神]
 「それ本当にやろうとしてたんですか……」


[朝蔵 大空]
 「も、もちろんだよ!」


[卯月 神]
 「従業員の仕事の邪魔になるような事はつつしむべきですよ、大空先輩?」


[朝蔵 大空]
 「あー今その呼び方しないでー!」



 待って、でも初めて卯月くんに下の名前で呼んでもらえた!嬉しい!!



[卯月 神]
 「うるさいですよ、騒ぐならお帰り下さいね」



 卯月くんに冷たくあしらわれる私。



[朝蔵 大空]
 「え、ちょっと待ってまだいちごミルク全然飲んでない!」


[如月 凛]
 「ソラ様が飲まないなら私が飲んでも良いですかー?」



 光った目で私のいちごミルクを狙うリンさん。


 言い訳無いでしょ!



[仁ノ岡 塁]
 「……」


[仁ノ岡 塁]
 (あの女が朝蔵大空……確かに他のとは違う、異質なオーラがある人間だ)





 「魔の手」おわり……。
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