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第83話
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《RDside》
一月後________。
穏やかな風が吹き、花々の優しい香りが運ばれる。雲一つない澄み渡った青の下、二十一歳を迎えたおれは、幸せになる。
二十となった新オルドガルド大公に嫁ぎ、オルドガルド大公夫人となるのだ。
今日、おれは、今日ランスと結婚する。
「オルドガルド大公家当主ランスロット・アルト・クロニカル・オルドガルド。オルドガルド大公家嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルド。
汝らは永遠の時を寄り添う夫婦となることを誓うか?」
「はい、誓います」
「はい、誓います」
皇帝陛下の御前。おれたちが招待した人々が見守る中、おれとランスは愛を誓い合う。
何物にも染まらない純白の生地に繊細に施された細工。完璧なまでの美しい中性的なドレス。ベールが顔全体を覆い、頭上には美しいティアラが光り輝く。隣には、おれとおれが纏うドレスと対になった純白の軍服を身に纏ったランスがいた。いつもは髪の色と同じ黒の軍服だが、今日は珍しく白だ。
ランスと向き合い、お互いの指にウラルデッタ公爵家の特注品である指輪を着け合う。そして、ランスはおれのベールに手をかけた。
「綺麗だ、ティファニベル…」
「ランスも、かっこいいよ」
そう言って微笑む。徐々に近づいてくる顔にドキドキしながら…おれはそっと瞳を閉じる。ふにっと唇に触れる熱いもの。あまりにも神秘的な誓いのキスに、人々は感嘆の息を漏らす。
唇が離れると同時に、盛大に湧き上がる歓声と拍手。あまりの嬉しさにおれは思わずランスの首に腕を回して抱き着いた。逞しい体でそれを易々と受け止めるランス。
「幸せになりましょう、ティファニベル」
「バカだなぁ…。もう十分に、幸せだよ。ランス」
まるで世界に二人っきり。ただただ見つめ合うおれたちは、もう一度キスをした。今度は、深い深いキスを。
本当にこれまでいろいろなことがあった。まさか、あんなにおれのことを嫌っていたランスと結婚することになるなんて、人生本当に何があるか分からない。
母の罪を晴らすこともでき、幸せにもなれて、本当に心から想う人と結婚もできて…。これ以上の幸せはないと断言できるくらいに、嬉しいよ。
平民で嫌われ者だったおれがこの世界で一番の幸せ者になれたのは、おれ自身が奮闘したのが大きな理由かもしれないけど…。でも、本当の一番の理由は、ランスがいたからだ。ランスがいなきゃ、こんなに幸せになれなかった。
ランスは、いつも以上に優しく微笑む。
「愛してる」
ランスのたった一言。
それだけで、幸せになれるのだから_________。
正式な式が終わった後は、皇宮の一角を借り切った盛大なパーティーが行われていた。
「ティファニベル様!おめでとうございましゅっ!!!」
「おまえはまた大事なとこで噛みやがって…」
「それがマリアさんのいいところではないですか?」
マリアとフェオ、エリノアと続く。専属使用人の服装ではなく、正装をした三人が仲良さげに話す中、その様子をおれとランスは微笑ましく見つめていた。
「次はマリアとフェオの番だね」
「ふぇっ!?」
「…盛大に開いてやるから期待しとけ」
ニヤニヤとしながらそう言うと、マリアは顔を真っ赤にさせて照れ、フェオは意外と乗り気に答えた。
「三人とも、本当にありがとう」
今では全員が立派な使用人だ。いいや、使用人と言うよりも、おれの仲間だと言った方がしっくり来るな。この三人がいなければ、今この瞬間の幸せの実現も、成し得ることができなかったことだろう。本当に、マリアとフェオとエリノアには、感謝してもしきれない。
マリアとエリノアは、おれに華麗に一礼をした。
「幸せになれよ、ティファニベル」
「おまえもね?フェオ」
フェオに握手を求められ、素直にそれに応える。すると突如として、背後から声をかけられた。
仲凄まじく、腕を組む姿は、もう立派な夫婦だ。まだ結婚はされていないけど…。
「ガラクシア公爵令嬢、ウラルデッタ次期公爵。本日はありがとうございます」
「それを言うのは私たちの方ですわ。こんな素敵な日に立ち会えたこと、心より嬉しく思います」
ガラクシア公爵令嬢とウラルデッタ次期公爵。金髪を後頭部で纏め、彼女の藍色の瞳とよく合う深い色のドレスの美女。会うのはランスの件で助言を貰ったとき以来だけど、あのときよりも何倍も美しい。隣に立つウラルデッタ次期公爵も、ガラクシア公爵令嬢の美しさに全く引けを取っていない。何よりも、翡翠の優しい瞳が魅力的だ。
「おめでとうございます。オルドガルド大公、ティファニベル様」
「ティファニベルだと?」
「も、申し訳ございません!もう既にオルドガルド大公夫人でいらっしゃいましたね…!」
人でも殺すんじゃないか?という目でウラルデッタ次期公爵を睨みつけたランス。ランスの目付きに怯えながらも、急いで訂正したウラルデッタ次期公爵はさすがだ…。
「あら。あの御二人もティファニベル様とオルドガルド大公に御用があるのね…。私たちはこの辺りで失礼致しますわ」
「では、また」
そそくさと退散していく二人を見送る。
あの御二人とは、誰のことだろう…。
そう思ってふと振り返ると_________。
「レミルアナと、ライドニッツ卿…!?」
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一月後________。
穏やかな風が吹き、花々の優しい香りが運ばれる。雲一つない澄み渡った青の下、二十一歳を迎えたおれは、幸せになる。
二十となった新オルドガルド大公に嫁ぎ、オルドガルド大公夫人となるのだ。
今日、おれは、今日ランスと結婚する。
「オルドガルド大公家当主ランスロット・アルト・クロニカル・オルドガルド。オルドガルド大公家嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルド。
汝らは永遠の時を寄り添う夫婦となることを誓うか?」
「はい、誓います」
「はい、誓います」
皇帝陛下の御前。おれたちが招待した人々が見守る中、おれとランスは愛を誓い合う。
何物にも染まらない純白の生地に繊細に施された細工。完璧なまでの美しい中性的なドレス。ベールが顔全体を覆い、頭上には美しいティアラが光り輝く。隣には、おれとおれが纏うドレスと対になった純白の軍服を身に纏ったランスがいた。いつもは髪の色と同じ黒の軍服だが、今日は珍しく白だ。
ランスと向き合い、お互いの指にウラルデッタ公爵家の特注品である指輪を着け合う。そして、ランスはおれのベールに手をかけた。
「綺麗だ、ティファニベル…」
「ランスも、かっこいいよ」
そう言って微笑む。徐々に近づいてくる顔にドキドキしながら…おれはそっと瞳を閉じる。ふにっと唇に触れる熱いもの。あまりにも神秘的な誓いのキスに、人々は感嘆の息を漏らす。
唇が離れると同時に、盛大に湧き上がる歓声と拍手。あまりの嬉しさにおれは思わずランスの首に腕を回して抱き着いた。逞しい体でそれを易々と受け止めるランス。
「幸せになりましょう、ティファニベル」
「バカだなぁ…。もう十分に、幸せだよ。ランス」
まるで世界に二人っきり。ただただ見つめ合うおれたちは、もう一度キスをした。今度は、深い深いキスを。
本当にこれまでいろいろなことがあった。まさか、あんなにおれのことを嫌っていたランスと結婚することになるなんて、人生本当に何があるか分からない。
母の罪を晴らすこともでき、幸せにもなれて、本当に心から想う人と結婚もできて…。これ以上の幸せはないと断言できるくらいに、嬉しいよ。
平民で嫌われ者だったおれがこの世界で一番の幸せ者になれたのは、おれ自身が奮闘したのが大きな理由かもしれないけど…。でも、本当の一番の理由は、ランスがいたからだ。ランスがいなきゃ、こんなに幸せになれなかった。
ランスは、いつも以上に優しく微笑む。
「愛してる」
ランスのたった一言。
それだけで、幸せになれるのだから_________。
正式な式が終わった後は、皇宮の一角を借り切った盛大なパーティーが行われていた。
「ティファニベル様!おめでとうございましゅっ!!!」
「おまえはまた大事なとこで噛みやがって…」
「それがマリアさんのいいところではないですか?」
マリアとフェオ、エリノアと続く。専属使用人の服装ではなく、正装をした三人が仲良さげに話す中、その様子をおれとランスは微笑ましく見つめていた。
「次はマリアとフェオの番だね」
「ふぇっ!?」
「…盛大に開いてやるから期待しとけ」
ニヤニヤとしながらそう言うと、マリアは顔を真っ赤にさせて照れ、フェオは意外と乗り気に答えた。
「三人とも、本当にありがとう」
今では全員が立派な使用人だ。いいや、使用人と言うよりも、おれの仲間だと言った方がしっくり来るな。この三人がいなければ、今この瞬間の幸せの実現も、成し得ることができなかったことだろう。本当に、マリアとフェオとエリノアには、感謝してもしきれない。
マリアとエリノアは、おれに華麗に一礼をした。
「幸せになれよ、ティファニベル」
「おまえもね?フェオ」
フェオに握手を求められ、素直にそれに応える。すると突如として、背後から声をかけられた。
仲凄まじく、腕を組む姿は、もう立派な夫婦だ。まだ結婚はされていないけど…。
「ガラクシア公爵令嬢、ウラルデッタ次期公爵。本日はありがとうございます」
「それを言うのは私たちの方ですわ。こんな素敵な日に立ち会えたこと、心より嬉しく思います」
ガラクシア公爵令嬢とウラルデッタ次期公爵。金髪を後頭部で纏め、彼女の藍色の瞳とよく合う深い色のドレスの美女。会うのはランスの件で助言を貰ったとき以来だけど、あのときよりも何倍も美しい。隣に立つウラルデッタ次期公爵も、ガラクシア公爵令嬢の美しさに全く引けを取っていない。何よりも、翡翠の優しい瞳が魅力的だ。
「おめでとうございます。オルドガルド大公、ティファニベル様」
「ティファニベルだと?」
「も、申し訳ございません!もう既にオルドガルド大公夫人でいらっしゃいましたね…!」
人でも殺すんじゃないか?という目でウラルデッタ次期公爵を睨みつけたランス。ランスの目付きに怯えながらも、急いで訂正したウラルデッタ次期公爵はさすがだ…。
「あら。あの御二人もティファニベル様とオルドガルド大公に御用があるのね…。私たちはこの辺りで失礼致しますわ」
「では、また」
そそくさと退散していく二人を見送る。
あの御二人とは、誰のことだろう…。
そう思ってふと振り返ると_________。
「レミルアナと、ライドニッツ卿…!?」
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