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第48話

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《TBside》

 裁判から数日。ランスと共に手配した場所へと売られて行ったべリザード大公家の方々。それを見送った後、おれはお父様に呼び出されていた。

「呼び出された理由は分かっているか?ティファニベル」

 そう問いかけられ、冷や汗がたらりと垂れる。レンズの向こうで煌めく瞳は、しっかりとおれを映していた。震えを何とか抑えて、お父様にお茶をお出しする。
 呼び出された理由は分かっているかって、どんな脅し文句だよ。分かるわけないじゃないか。ここは素直に首を振るのが得策だよね…。

「いいえ。何のことだかさっぱり分かりません」

 健気に笑いながらそう言ったおれを見て、お父様は静かに俯いた。
 ど、どういう反応?おれが何かやらかした?だから呼び出したの?無事にべリザード大公家は奴隷に没落したし、何もやらかした覚えがないんだけど。それとも何?今更になってあんな重罪はよろしくなかったとでも言うつもり?
 おれは、淹れたてのお茶を口につける。

「ランスとの婚約の件だ」

 と、同時に思いっきり噴き出しそうになった。ゴホゴホと咳き込むおれを心配するようにハンカチを出してきたお父様。素直にそれを受け取る。

「ご、御存知だったのですか?」
「知らないとでも思ったか」

 お父様は、呆れたように大きめの溜息を吐いた。
 それもそうだ。お父様は、オルドガルド大公家当主であり、この大帝国の宰相でもある。遅かれ早かれお父様の耳には入るだろうと思っていたけれど、まさか問題が解決したこのタイミングで聞かれることになるとは…。せっかくべリザード家の問題が解決したというのに、次は婚約の問題か。

「お父様も宰相であるのならば想像は着くかと思いますが、婚約はギブアンドテイクの関係です。ランスとおれは様々な方々からの求婚を避けることができるので、互いに利益が生まれます。時が来たら婚約の件はなかったことになったと正式に発表しますので、御心配なく」
「何の心配があると?」
「え、?」

 説明し終えたおれは、一人満足する。しかし、お父様の思いがけない言葉に、思わず疑問の声が漏れてしまった。
 何の心配があるって、そりゃあ、一人息子で大事な跡取りがおれに毒されるかもしれないという心配、とか。
 べリザード家の娘との婚約は、オルドガルド大公家にとってもメリットしかなかった。しかしそれを跳ね除け、婚約の件は全て息子に任せていると言い切る辺り、お父様は尊敬に値する父親だ。しかし、おれと婚約するとなってはだいぶ話が変わってくるだろう。これでもおれは、曲がりなりにもオルドガルド大公家の長男なんだ。そしてランスは次男。いくら子を産める体を持っているからと言って、義理の兄弟で結婚するなんて…。お父様からしたら反対の気持ちしかないはずでは?

「べリザード家にも言った通り、婚約の件は全てランスロットに一任している。ランスロットが結婚したい相手と結ばれればいいと思っている。たとえその相手がおまえであったとしてもな」
「………正気ですか?」
「あぁ」

 お父様の大層真面目な顔に、おれは呆れて物が言えなくなる。
 子供思いの良い父親だと思っていたけど、せめて結婚相手くらいは助言するべきだ。ランスはいずれオルドガルド大公家を継ぎ、全てにおいて完璧な女性と婚姻を結んで優秀な子を成さなければならない。その相手に、おれは不釣り合いだ。ランスロットは、名声も美貌も教養も、全てを兼ね備えた女性と結婚すべきだ。そこに、おれの意思は関係ない…。
 チクリと痛む心の傷。この気持ちに素直になってしまえば、おれたちの関係が壊れる気がする。だから、おれは認めない。この心の底にある本当の想いを…。

「おまえは、ルラーナの子だ。ルラーナの子が、息子であるランスロットの妻になってくれるのならば、それ以上に幸せなことはない」

 お父様はそっと瞳を閉じる。きっと瞳の裏には、お父様が唯一愛した女性が映っているのだろう。
 自分が愛した人の子と、自分の血を引いた子の結婚。確かにお父様からしたら、それは喜ばしいことなのかもしれない。

「ランスロットもティファニベルを妻に迎えたいと言っている」
「っ!?!?!?」

 ガタンと立ち上がるおれ。自らの無礼に気づき、すぐに謝罪して席に着いた。
 熱い(?)夜を過ごした日の翌朝。ランスは、おれに求める褒美として、確かに婚約ではなく結婚を望んだ。その意図はよく分からない…。もうべリザード家の問題は解決してしまったし、障害は今のところ何もないわけだけど…。
 舞踏会で堂々と婚約の話をしてしまったから、その噂はお父様の耳に入ると覚悟はしていた。だけど、問題はそこではない。ランスが直接お父様に言ってしまったことだ。「妻に迎えたい」と。

「もう一度言う。婚約の件は全てランスロットに一任している。ランスロットが結婚したい相手は、おまえだ。ティファニベル」

 爆弾のように落とされた衝撃的な言葉に、おれは思わずその場で倒れそうになってしまったのだった。





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