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第4章
第1話『二人の味方』
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《SRside》
《雪華宮》。アーサー大帝国の皇后が代々住まう宮。皇妃たちに用意されている後宮とは、全くの別物。皇后のみが、住まうことを許されている場所である。
《雪華宮》は、アイシクル王城よりも遥かに大きく立派だ。色褪せることのない外観の美しさに、細部まで施された壁画。白亜の宮は、青や水色といった寒色系統の色彩の物で彩られている。
皇后宮は、嫁いでくる新皇后に因んで、名前も内装も変えるのだと言う。今回おれが嫁いでくる際、宮の名前を決めたのも内装を考えたのも、皇帝陛下だったらしい。本当かは分からないけど…。
「スティーリア・フロースト・フェルナンド・アーサー皇后陛下。よくぞいらっしゃいました」
《雪華宮》の門の前。ずらりと道を作るようにして並んだ女性たち。既視感を感じたおれは、バレないよう小さく溜息をついた。
「《雪華宮》にて、皇后陛下にお仕えさせていただきます使用人たちでございます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「「「よろしくお願い致します」」」
先頭に立つ女性の掛け声と共に、並んでいた使用人たちが一斉に声を発しながら一礼をした。
「侍女長を務めさせていただきます、ラリサ・クリスティアーノ・デリ・オーケソンと申します。以後、お見知りおきを」
そう言って、華麗に挨拶を遂げた女性。琥珀色の短髪に、桃花色の切れ長の瞳。目鼻立ちがくっきりとした美しい女性は、アーサー大帝国オーケソン辺境伯御令嬢だったと記憶している。
「よろしくお願い致します。ラリサ嬢」
「皇后陛下。お言葉でありますが、私のことはラリサとお呼びくださいませ。敬語もお止めください。私奴は皇后陛下の侍女なのですから」
「わ、分かったよ。よろしくね、ラリサ」
ラリサは、こくりと頷いた。すると、その後ろに立っていた女性が前へと出て来る。
「皇后陛下。お初にお目にかかりますわ。私はテレシア・トルディ・マルヘリー・ハウエリル。ラリサと共に侍女長を務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致しますわ」
「よろしく、テレシア」
ハウエリル伯爵令嬢であるテレシア・トルディ・マルヘリー・ハウエリルは、とても大人っぽい艶やかな女性だ。白藍色の長髪に、瑠璃紺の瞳はまさに神秘の美と言っても過言ではない。
ラリサとテレシアは、他の侍女たちとは服装も身分も違う。基本的に皇后の侍女長を務める人間は、貴族令嬢の中から選別される。そのため、服装は自由。貴族令嬢たちにとって皇后の侍女となるのは、素晴らしき名誉なのだという。その後の、結婚相手などにも関わってくるらしい。
この二人はどこからどう見ても、貴族の中の貴族といった感じだ…。
「では、早速お部屋へと御案内致します」
ラリサの後を着いて、《雪華宮》の中へと足を踏み入れる。ふわりと香る花の匂いに誘われながら、おれの部屋となる場所へ向かう。
「それにしても、まさか皇后陛下がこんなにも美しい御方だったなんて…。結婚式の際にも拝見致しましたが、近くで見るとますますお美しいですわね」
「お世辞はやめてよ、テレシア…」
「あら、心外ですわ。本音を申し上げただけですのに」
赤く色付いた頬をぷくりと膨らませ、拗ねたような表情を浮かべるテレシア。
顔も体も大人の女性という感じなのに、表情はコロコロ変わって可愛らしいんだ…。ギャップに殺られる男性方も多そうだね。
「テレシア。あまり皇后陛下を困らせてはいけませんよ」
「困らせたつもりはなくてよ。ラリサも思うでしょう?これほどの美しい御方がこの世にいるなんて、と」
「そう、ですね。皇后陛下のようなお美しい御方を見て衝撃を受けたのは、皇帝陛下以来です」
ラリサは、サラッと恥ずかしいことを口にした。テレシアは「そうでしょう!?」と何故か喜んでいる。
何事にも動じなさそうなのに、陛下の美しさには驚いたんだ…。いや、誰だってそうだよ。陛下は、全世界の美というものを凝縮したような御方だ。あの御方を見て、驚かないという方がむしろおかしい。顔はもちろん、政治にも武芸にも長けており、名誉も身分も申し分ない。おれは、そんな御方に昨日、抱かれてしまったんだ…。あぁ、少し思い出すだけでも体が熱くなってくる。
脳内に浮かんだ、はわわな出来事を打ち消そうと首を振ると、ニヤリと笑ったテレシアと目が合った。
「昨晩はお楽しみだったようで」
「な、何で分かるの!?………あ、」
「皇后陛下。自爆しておられますよ」
ラリサの冷静なツッコミが、心に響く。今のおれの様子を見ただけで、昨晩のことが分かるなんて、一体何者なの、テレシアは…。
「後でたくさんお聞かせくださいね♡」
「…絶対言わないから」
「あぁん、そんな堅いこと言わずに♡」
甘えるように擦り寄ってくるテレシアを無視して、おれは早足でラリサに着いて行ったのだった。
何が何でも言いたくないよ!!!そんなこと!
。❅°.。゜.❆。・。❅。
《雪華宮》。アーサー大帝国の皇后が代々住まう宮。皇妃たちに用意されている後宮とは、全くの別物。皇后のみが、住まうことを許されている場所である。
《雪華宮》は、アイシクル王城よりも遥かに大きく立派だ。色褪せることのない外観の美しさに、細部まで施された壁画。白亜の宮は、青や水色といった寒色系統の色彩の物で彩られている。
皇后宮は、嫁いでくる新皇后に因んで、名前も内装も変えるのだと言う。今回おれが嫁いでくる際、宮の名前を決めたのも内装を考えたのも、皇帝陛下だったらしい。本当かは分からないけど…。
「スティーリア・フロースト・フェルナンド・アーサー皇后陛下。よくぞいらっしゃいました」
《雪華宮》の門の前。ずらりと道を作るようにして並んだ女性たち。既視感を感じたおれは、バレないよう小さく溜息をついた。
「《雪華宮》にて、皇后陛下にお仕えさせていただきます使用人たちでございます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「「「よろしくお願い致します」」」
先頭に立つ女性の掛け声と共に、並んでいた使用人たちが一斉に声を発しながら一礼をした。
「侍女長を務めさせていただきます、ラリサ・クリスティアーノ・デリ・オーケソンと申します。以後、お見知りおきを」
そう言って、華麗に挨拶を遂げた女性。琥珀色の短髪に、桃花色の切れ長の瞳。目鼻立ちがくっきりとした美しい女性は、アーサー大帝国オーケソン辺境伯御令嬢だったと記憶している。
「よろしくお願い致します。ラリサ嬢」
「皇后陛下。お言葉でありますが、私のことはラリサとお呼びくださいませ。敬語もお止めください。私奴は皇后陛下の侍女なのですから」
「わ、分かったよ。よろしくね、ラリサ」
ラリサは、こくりと頷いた。すると、その後ろに立っていた女性が前へと出て来る。
「皇后陛下。お初にお目にかかりますわ。私はテレシア・トルディ・マルヘリー・ハウエリル。ラリサと共に侍女長を務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願い致しますわ」
「よろしく、テレシア」
ハウエリル伯爵令嬢であるテレシア・トルディ・マルヘリー・ハウエリルは、とても大人っぽい艶やかな女性だ。白藍色の長髪に、瑠璃紺の瞳はまさに神秘の美と言っても過言ではない。
ラリサとテレシアは、他の侍女たちとは服装も身分も違う。基本的に皇后の侍女長を務める人間は、貴族令嬢の中から選別される。そのため、服装は自由。貴族令嬢たちにとって皇后の侍女となるのは、素晴らしき名誉なのだという。その後の、結婚相手などにも関わってくるらしい。
この二人はどこからどう見ても、貴族の中の貴族といった感じだ…。
「では、早速お部屋へと御案内致します」
ラリサの後を着いて、《雪華宮》の中へと足を踏み入れる。ふわりと香る花の匂いに誘われながら、おれの部屋となる場所へ向かう。
「それにしても、まさか皇后陛下がこんなにも美しい御方だったなんて…。結婚式の際にも拝見致しましたが、近くで見るとますますお美しいですわね」
「お世辞はやめてよ、テレシア…」
「あら、心外ですわ。本音を申し上げただけですのに」
赤く色付いた頬をぷくりと膨らませ、拗ねたような表情を浮かべるテレシア。
顔も体も大人の女性という感じなのに、表情はコロコロ変わって可愛らしいんだ…。ギャップに殺られる男性方も多そうだね。
「テレシア。あまり皇后陛下を困らせてはいけませんよ」
「困らせたつもりはなくてよ。ラリサも思うでしょう?これほどの美しい御方がこの世にいるなんて、と」
「そう、ですね。皇后陛下のようなお美しい御方を見て衝撃を受けたのは、皇帝陛下以来です」
ラリサは、サラッと恥ずかしいことを口にした。テレシアは「そうでしょう!?」と何故か喜んでいる。
何事にも動じなさそうなのに、陛下の美しさには驚いたんだ…。いや、誰だってそうだよ。陛下は、全世界の美というものを凝縮したような御方だ。あの御方を見て、驚かないという方がむしろおかしい。顔はもちろん、政治にも武芸にも長けており、名誉も身分も申し分ない。おれは、そんな御方に昨日、抱かれてしまったんだ…。あぁ、少し思い出すだけでも体が熱くなってくる。
脳内に浮かんだ、はわわな出来事を打ち消そうと首を振ると、ニヤリと笑ったテレシアと目が合った。
「昨晩はお楽しみだったようで」
「な、何で分かるの!?………あ、」
「皇后陛下。自爆しておられますよ」
ラリサの冷静なツッコミが、心に響く。今のおれの様子を見ただけで、昨晩のことが分かるなんて、一体何者なの、テレシアは…。
「後でたくさんお聞かせくださいね♡」
「…絶対言わないから」
「あぁん、そんな堅いこと言わずに♡」
甘えるように擦り寄ってくるテレシアを無視して、おれは早足でラリサに着いて行ったのだった。
何が何でも言いたくないよ!!!そんなこと!
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