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〖195〗見えない時計
しおりを挟む彼は横目でシオンを眺めながら新しい酒へ口をつける。部屋の奥から出てきたのはイディオムの取締を名乗った者だった。
「·····は、ぁう·····っ·····」
カーテンが完全に引き上げられる。
「···············は···············?」
初め目に入ったのは、白い身体にちらばった血痕。
大きな瞳からはいくつもの雫がこぼれ落ちていった。
濡れた尻から、紐が垂れている。
それが、耳が溶けそうな甘声とともに、ゆらゆらと揺れる。
(何か、入って───)
3人の男達は誰1人としてシオンを助けようとしない。
目の前には、ただ辱めるためだけの恥虐が繰り広げられている。
テオスは言葉を失ったまま目を離せなかった。
ベットの淵に腰掛けた男が、シオンへ手を伸ばす。
近づきながら──流し目が、こちらへ投げかけられた。
「!!」
テオスは弾かれるような速さでその場を後にした。
扉の隙間から見えた光景の中で、奴は笑っていた。
極少数派で、気配を操れる者がいる。ボルドーの男は、恐らくわざと存在を勘付かせていたのだろう。
この光景を見せつけ、自分のものだと知らしめるために。
まるで、捉えた動物を弄び、飼い慣らすような手つきだった。
(なんなんだ)
彼らの関係は、経営者と従業員のそれではない。
シオンは異邦人だ。
自分とは無関係の人間。どうなろうが構わないやつだった。
しかし、今は──。
"ツェオスと共に"
「·····」
テオスは自身の拳を見下ろした。
島の人々を救いたい長と、守りたいテオス。
お互い、強い信念を持つが故に衝突しあっているが、願うことは同じだろう。
現在、イディオムから配給された薬によって、伝染病患者の様態は回復しているという。
病の克服と共に二人の仲違いも解消されるはずだ。
久しぶりに穏やかな気分だった。
テオスなら、きっと立派な長になる。
シオンは密かに島の栄光を祈った。
「おかえりなさい、エル」
こっそり部屋に入ったのに声をかけられてしまった。
ソファに腰掛けたジェイと、立ったままテーブルを見下ろしているバレン。
「24時11分52秒。うーん」
バレンは宙を眺めながら呟いた。
彼にだけ見える時計でも存在するらしい。逃げるように反対方向へ向かおうとした足は、柱から姿を現したテイラーに阻まれた。
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