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〖185〗異邦人

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いくら必死に足を動かしても、使用人から距離が遠ざかってゆく。
その前を行くテオスの面影は、既にすっかり見えなくなっていた。


「異邦人は島から出ていけ!」


やがて、さっき聞いたのと同じ怒鳴り声が聞こえてきた。

ずっと探していた宴会場からだ。
着いてきてよかった。

扉に駆け込もうとしたシオンは、直ぐに身体を引っ込めた。

目の前に、朱殷色の上着を肩にかけた背中があった。


「俺たちは先祖代々自族だけの力で生き残ってきた!異邦人の力など必要ない!」


しんと静まり返った会場に、テオスの声が轟く。
彼の新緑はテイラーとバレンを見据えていた。


「邪悪な気を感じる。俺にはわかる。お前たちは、必ず島に災いをもたらす!」

「───テオス!」


テオスの言葉は、それよりも低い声に遮られた。
戒めるように彼を睨みつけたのは長老だ。

2人は数秒間睨み合い──先に視線を逸らしたのはテオスだった。


「俺は認めない!」


肩からこちらを振り返った彼に驚いて、シオンはさらに半歩後ずさった。
目が合ったテオスは忌々しげにこちらへガンを付け、無言のまま廊下の向こうへ消えてしまった。


「──長!」


会場に、高い悲鳴が上がった。
人々が長の周りへ集っている。
彼は胸元を押さえつけ、何度か大きく咳き込んでいた。

大きな存在に見えていた長老は、若い男と比べると小さく見えた。


「·····儂はもう長くないだろう」


嗄れた声は、少しかすれている。
それでもはっきりと聞こえる言葉には、まるで魂が宿っているみたいだ。


「しかし後継者のテオスはまだ若く、未熟だ」


人々が見守る中、長は苦渋に顔を歪めた。


「今日初めて会う外の方にこんな事を頼むのは情けない限りだが·····どうか、島の人々を、不治の病から救ってくだされ」


「お任せ下さい」


テイラーはあっさり返答した。
長の顔に刻まれた皺が深い影を落とすのを見つめながら、シオンはそっと下唇を噛んだ。

薬ならある。
ただ、ほんの小さな嘘が隠れているだけだ。
イディオムが島を救えることに違いはない。

しかし、嫌な予感がするのは、気の所為だろうか?

(僕は何も出来ない)

これは、島の問題だ。
ましてや、捕虜の自分が、あれこれと考える必要なんてない。







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