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〖183〗何者?
しおりを挟むふと、周りを見渡す。
似たような廊下が左右縦横に続いている。
どっちから来たっけ。
これじゃ、逃げるつもりが無くなったのに、脱走したと誤解されてしまう。
早く戻らないと。
とりあえず、真後ろの道を振り返る。
さっき見たような見ていないような獣の置物を通り過ぎ、ひたすら真っ直ぐな廊下を進む。
しかし、またさっきと同じ置物に遭遇した。
どうやら迷子になってしまったようだった。
じゃあ、今度は左を行ってみよう。踵を返した時、視線の端で何かが光った。
「·····?」
廊下の奥、少し立派な扉が、半開きになっている。
その向こうの暗闇で、キラキラと輝くものがあった。
蛍にしては鋭い光だ。
なんだろう。
シオンは廊下を抜け、扉の中を覗き込んだ。
ギィィ───。
「!」
少し手を添えただけなのに、重苦しい扉はいとも簡単に隙間を広げる。
気がつけば、誘われるように、部屋の中へと入り込んでいた。
物影の向こうで、それは煌々と光っている。
弱くなったり強くなったりする様は、まるで生き物が息をしているみたいだった。
はやる気持ちを抑え、そっと近づく。
覗き込んだ時、光はピタリと止んでいた。
「·····あれ·····」
「────動くな」
すぐ後ろで、硬い声が言った。
首元に冷たいものが当たる。
驚いて飛び上がると、それが喉元へ喰い込んだ。
焼けるような鋭い痛みが走った。
「正体を明かせば、楽に殺してやる」
当てられているのは、鋭い切っ先だ。
「何者だ」
背後から聞こえてくる警告はただの脅しではない。
黙っていたら殺されてしまう。
シオンは状況が呑み込めないまま、パクパクと口を動かした。
「道が、わからなくて、」
「道?」
話す度、豆粒ほどの喉仏に刃が触れる。
怖い。
「?おい──·····」
膝から力が抜けて、しゃがみこむ。
ありえないほど強い力に腕を引っ張り上げられ、シオンの身体は宙に浮いた。
「·····は?」
目の前にあったのは、ライトグリーンの双眸。
腕を持ち上げていたのは、精悍な顔つきをした青年だった。
「女?!」
叫び声とともに、相手の手から力が抜ける。
シオンは重力に従い、彼めがけて覆いかぶさった。
「·····っ!」
覚悟した痛みはやってこない。そっと目を開けた先に、こちらを見上げる鋭い瞳があった。
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