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〖177〗どっち?

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「誰も通すなと言ったはずだが?」


テイラーはバレンを一瞥してから、男へと黒目を流した。
目を合わせていないシオンでさえ凍りつくような、冷冷たる視線だ。


「も、申し訳ありません、代表·····お許しを·····」

「今すぐに部屋から出ていけ」


テイラーが言い終わる前に、男は弾かれるようにして廊下の向こうへ消えていった。
組織の力関係が一目瞭然だ。ことの成り行きを見守りながら、シオンは彼を気の毒に思った。

そりゃ、こんなふたりが上司だったら、恐ろしくて、どちらに歯向かうのも不可能だ。


「さて、どういうことか説明してもらいましょうか、エル」

「·····へ?」


扉に背をかたむけたバレンが言う。


「恋人になって2日目から浮気なんて、あんまりです」

「???」

「恋人だって?」


聞き返したテイラーが、チラとこちらを見下ろした。
そんなのになった覚えはない。
シオンはぶんぶんと首を振った。


「ちがう」


青紫の瞳が、今度はバレンを見返す。


「だ、そうだが」

「これはこれは」


バレンは大袈裟に両手を持ち上げた。
嘆くように宙を仰いで、1歩ずつこちらへ近づいてくる。


「躊躇いもなく俺を捨てるつもりなのですね」


また、なにか始まった。
逃げ出したいが、彼らにかかればあり1匹逃げる隙もないだろう。


(そうだ、薬·····)


テイラーの手を握る。
助けを求めるように見上げた顔は、意外そうに少し目を見開いていた。


「·····?」

「残念だが、エルは私を選んだようだよ」

「?????」


否定しようとした口はそっと塞がれる。


「助けて欲しいんでしょう」


テイラーは、こちらにだけ聴こえる声で囁いた。

不安だが、今は彼に従う他無さそうだ。
冷や汗を散らせるように、瞬きを繰り返す。


(あれ?でも····)


「救って欲しいと懇願されたばかりで、」


そういえば、息ができる。
それに、しっかり地に足も着いている。


「なかなかいじらしい愛の告白でした」


長い指が髪をすいてゆく。


からかわれたんだ。
シオンは耳が熱くなった。


「これは酷い」


口元が自由になった時には、目の前にバレンがいた。


「同じ顔の男に愛する人を奪われる·····こんなに酷い話がありますか?」


伸びてきた彼の指が、テイラーとのキスで濡れた唇をぬぐう。
指をふき取ったハンカチは床へ投げ捨てられた。


「なんで、ちがう·····」


もう、どっちに何を弁解すれば良いのかわからなくなってしまっていた。
かろうじて呟いた言葉に、「じゃあ」と声が重なる。


「どっちが好き?」








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