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〖167〗デザート
しおりを挟む料理は貧乏症すら完食をあきらめるほどボリューミーだった。
食べきれなかった料理を隣の机に置き、木の実をつまむ。食後、密かに楽しみにしていたのだ。
「エルは」
椅子に腰かけていたバレンが、不意に声をかけてきた。
「特別な人はいるんですか?」
「·····特別?」
告げられた単語を反復する。
なんの事やら、全く分からない。
デザートを食べる機会を奪われてしまった。
シオンは残念に思いながら、首を傾げた。
「あの中の誰が恋人だったんですか?」
素っ頓狂な質問を投げかけられる。
恋人とは、特別で大切なパートナーのことを指すのではないだろうか。
筆で書いたような流れ目が、少し眩しそうにこっちを見つめている。
「いません、今までも1人も」
誰かの、唯一無二の特別な存在になったことなんてない。
「ええ?」
彼は声で遊ぶように、低い笑みを転がした。
「そんな寂しいことないでしょう」
「あ」
手に取ろうとした果実を皿ごと取り上げられる。
椅子に腰かけていたバレンは、たった半歩でベットへ腰かけた。
「じゃ、好きな人は?」
「んっ」
「うーん·····紫····というよりは」
半開きになった口元へ、赤い実が押し込まれる。
昨日よりも甘く感じる。飲み込むと、喉元へ、酸っぱい余韻が逃げていった。
(紫?)
好きな人とか、恋人とか、お門違いにも程がある。
自分は、彼らと同等ではない。
「赤髪の彼ですか?」
「!」
ちょうど、最後に見た赤い瞳を思い出していた。
自分を庇い、暗闇へ落ちていった真紅。彼の台詞は、理解し難いものだった。
「ちがう」
唇に触れた長い指は、昨日と同じく舐め取られた。
「左下で視線をさ迷わせるのは、困った時の癖ですね」
「!」
「食後のデザートにしましょう」
手にしていたフォークを取り上げられる。
逃げるようにして反対方向を向くが、うつ伏せに捕らえられてしまった。
「で、デザート·····?ひゃ·····っ」
大きな手が、羽織っていたシャツの中に入り込む。
すう、と、後頭部の辺りで息を吸い込む音がする。
振り返ると、こめかみにキスを落とされた。
「ミルクみたいな、甘い匂いがする」
だから二人きりにされるのは嫌だったんだ。
怒りにも似た不満を頭の中で叫ぶ。
拒絶したつもりなのに、戯れと勘違いされたらしい。彼はまたよしよしと頭を撫でながら、髪の毛にキスを落としていった。
「かわいいエル····」
「ひゃんっ」
片手だけで尻の頬を鷲掴みされる。
腰は簡単に浮きあがった。
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