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〖166〗剃り合わない双子
しおりを挟む誘ったとか何とかという話だろうか。
よく分からないし、とにかく今は、特にバレンが嫌いだ。
シオンは知らないフリをした。
「あ、ちょっと、エル~」
「お食事を持ってきました」
テイラーが手に持っていたのは、食器を乗せたトレイだった。
スープにライ麦パン、3種類のハムに、カラフルな付け合せ。手のひらサイズのボールには、昨夜気に入った木の実がたっぷり入っている。
囚われ人に与えるにしては、豪華すぎる料理だった。
「なんでこんなことするんですか」
「こんなこと?」
テイラーが聞き返してくる。
「こんな·····」
こんなに良くしてもらう理由がわからない。
懐柔しようとか、思ってるんだろうか。
けれど様子を見るに、そんな面倒なことをする必要も無いはずだ。
真新しいシャツを肩にかけられる。
テイラーはベットの端に腰掛け、長い足を組んだ。
「ボスの命令です。不自由はさせません。望むものを、望んだ時に差し上げるのが私たちの役目です」
「そうそう、だから俺は、てっきり"あっち"をお望みなのかと思って」
「黙っていろと言ったはずだが?」
またもや口を挟んだバレンはテイラーに釘を刺される。
相変わらず減らず口で、調子が良い。
昨日面食らった顔をしていたのが、嘘みたいだ。
(じゃあ、テイラーやバレンは·····)
シオンはそっと彼を見つめ返す。
目が合うと、テイラーは少し嬉しそうに微笑んだ。
「下心や目的はありません。私たちを恨んでいても、信用しなくても良いのです。ですから·····」
「いや、俺にはありますよ、下ごこr」
「せめて遠慮せず、お望みの事があらば仰ってください」
もはや、双子のかたわれの方はいないものとして話を続けられる。
バイオレットの瞳が、瞬きの度にきらめく。
うっとりしてしまいそうな輝きだった。
·····ぐー。
静かな部屋に、間抜けな音が鳴る。
シオンは慌てて腹を抑えた。
腹の虫は、追い打ちをかけるように、ぐぅぅ、と、空腹を訴える。
「ごゆっくり」
テイラーはそれを最後に部屋を出ていってしまった。
取り残されたのは、暖かな食事と、自分と、そして二人きりにはなりたくなかった男。
彼がいたら、ごゆっくりできない。叫びたいところだが、ここには既に彼と自分しかいない。
スプーンを手に取り、スープを啜る。
こちらが食事する様子を、バレンはにこにこしながら眺めていた。
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