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〖163〗美しい猛獣
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柔らかな羽毛に全身が深く沈んでいる。
身体中から気力を吸い取られるような夢見心地だ。伸びをすると、肌触りの良いシーツが擦れた。
「ん·····?」
素肌にしっとりした布のこすれを感じる。
なぜ、裸のまま眠っているのか?
シオンはパチリと目を覚まし───目の前に広がった光景に、言葉をなくした。
岩みたいにゴツゴツした、明るいクリーム色の肌。
はだけたシャツから伸びる首筋を追うと、シャープな輪郭が目に入った。
切れ長の目元は伏せられ、朝日に照らされたボルドーの髪は、少し赤みがかって見える。
あまりの美形に、一瞬めまいを起こす。
シーツの裾を持ち上げたシオンは、その中を覗き込み、そっと元に戻した。
相手も自分も、素っ裸だ。
記憶が朧気に蘇ってくる。確かあんな事やこんな事をされて、そんな事やどんな事があって、いつの間にか意識を失っていた。
身体は清潔だ。
窓の陽射しから察するに、既に日は高く昇っている。
毎朝欠かさず早朝に起きていた自分が、正午近くまで眠ってしまうなんて。
(いや、今はそんなこと、どうでもいい)
美しい猛獣が目を覚ます前に、ここを逃げ出そう。
寝転んだまま、そうっと背後へ引下がる。
焦らずゆっくりと。
自分に言い聞かせながら、慎重に進む。
(あと、もう少し)
希望を見いだしたシオンは、チラと前を向き、固まった。
2つの青紫が、じっとこちらを見つめている。
見つめると言うには、少し力ない眼差しだ。
目が合うと、彼は不思議そうに首を傾げた。
昨日は、ここから出たいと言っただけで、執拗に辱め倒されたのだ。
逃げようとしていたなんてことがバレたら、殺されるかもしれない。
シオンは咄嗟に眠ったフリをした。
幸い、相手はまだ夢うつつの様子。きっと大丈夫だ。
「·····まず、朝食をお持ちしようと思ったのですが」
寝起きにしてはしっかりした声音が言う。
ベットがきしみ、シーツが肩からずりおちる。
彼が上半身を起こしたのだ。
その調子でここから出ていってほしい。ぎゅうと目をつむっていたシオンのまぶたに、軽い温もりが当てられた。
「こんな風に誘うなんて、大胆ですね」
「?!」
視界に影が落ちる。
驚いて目を開けかけるが、そうしたら狸寝入りしていたことがバレてしまう。
シオンは目を閉じたまま、覆いかぶさってきた男に神経を集中させた。
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