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〖147〗
しおりを挟む部屋に戻ろうと、来た道を引き返す。
「待てよ」
手首を捕まえられる。
少し親しい話し方も、余計に切なさを感じる。
「離して」
初めて反抗を試みる。
手はあっさりと離された。
それなのに、彼の前から離れることが出来ない。
目の前に立ち止まった靴を見下ろす。
「そんなこと気にしなくていい」
落ち着いた声が言い聞かせる。
そんなにも、自分に興味が無いのだろうか。
足元が冷たくなってゆく。
彼は構わず言葉を続けた。
「そのままのお前が良いんだ」
しっかりと紡がれた台詞を、脳内で噛み砕く。
「なんで、そんなこと言うの·····?」
どう考えても、意図の分からない発言だった。
「わからないのか?」
ジェイはそっとかがみこんだ。
キスをしてきたのは彼からだった。
弱音を吐きかけた唇に、熱がともる。
あとずさると、腰を抱き寄せられた。
さっき簡単に振り解けたのが嘘みたいに、ビクともしない。
「は、ふ·····っ·····ン·····」
ちゅぷ、と甘い水音をこぼして、舌が挿入される。
上唇を啄まれながら口内を蹂躙され、今度は下唇に噛み付かれた。
一瞬見開かれた黒目は、すぐにうっとりと細められた。
「·····や····っ」
顔をそむけると、親指を顎に添えられ、彼の方を見上げさせられる。
じんわりと熱くなった頬を撫でた人差し指が、次に唇をなぞった。
虚勢が剥がれ落ちてゆく。
ジェイは、じっとシオンを見つめた。
「なんで·····っ」
潤んだひとみから宝石がこぼれおちそうだ。
幼い頃と変わらない、純粋で、無邪気なシオン。
変わらず、自分を待っていてくれた。
たまらなく愛おしくて、少し油断すれば、理性を崩されてしまいそうなほど危うい熱だ。
「·····」
狼狽えたシオンを抱きすくめる。
8年前、彼に与えたのは、生きる希望などではない。
足枷だ。
依存と執着。
孤独な少年は、唯一居場所をくれた年上の少年に、固執せざるを得なかった。
シオンを守りたかった。そして離れても自分だけを見ていてくれるように仕向けた。
どこまでも純粋で、歪んだ愛情だ。
残された時間はあとわずか。
目的を達成するまで、あと少しだ。
「嫌か?」
「ひゃん·····つ」
柔らかな耳たぶに噛み付く。
そうやって、木箱の上に座らせたシオンの逃げ場を塞ぐ。
シャツのボタンを外してやっているあいだ、細い両手は戸惑うように服を握り締めるも、完全な抵抗は見せなかった。
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