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〖144〗くだらない

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ズルリ、ブチッ。
嫌な音と共に、巻貝と蜈蚣が分別される。
頭を潰されると、それはビクビクはねてから動かなくなった。
衝撃の場面を目の当たりにして、シオンはその場に固まった。


「ほら、もう大丈夫っすよ」


身が美味しいですよ、このままで食べられます、なんていう宇宙人語を聞きながら、身体からは力が抜けてゆく。


「ん·····?あれれ、エル?」

「何してる」


低い声が加わる。
日焼けした手が、シオンを引き寄せた。


「ジェイ」


助かった。
ジェイの袖を握りしめる。


「エル」


それを見ていたボルドーの髪が、わざとらしく傾けられた。


「ボスばっかり、狡いですよ」

「へ?」


まるで、ジェイにベッタリみたいな言われ方だ。
そんな風に見えていたのだろうか。
パッと手を離す。ジェイの表情は、勿論仮面のせいで見えなかった。

「好き嫌いしたら、ボスに嫌われちゃいますよ」


バレンが残酷なセリフとともにニコリと微笑む。
シオンは逡巡してから、ゴクリと唾を飲み込んだ。

バレンの持つヤドカリに、恐る恐る手を伸ばす。
しかし、やっぱり怖い。
震え出した指は、そっと包み込まれた。


「!」


中指の第2関節に弾力を押し当てられる。


「本当に可愛くて」


指先に触れた唇で、バレンは少し意地悪に囁いた。


「俺は、食べたくてたまらないんですけどね」


不覚にもカッと頬が赤らむ。
丁度、少し離れた岸から、テイラーがバレンを呼ぶ声が聞こえた。
ジャングルの散策に行くようだ。

結局、シオンは一言も言い返せないまま、バレンの背中を見送った。


「·····っ?」


右肩に鈍い痛みを感じる。
ジェイの指が、シャツの上からくい込んでいた。


「ジェイ?」


彼がおもむろにこちらを見下ろす。


「痛い·····」

「·····悪い」


無意識だったようだ。
呟くと、大きな手は逃げるように離れていった。

肩が砕けてしまうかと思った。
そのくらいの力を、彼は意図せず発揮することが出来てしまうのだ。

ゾクリと、背に嫌な汗が流れる。
シオンはそれを、直ぐに脳内から追い払った。


「嫌いなものを無理に好きにならなくていい」


低く響くのに、爽やかな夜風みたいな声だ。


「·····でも·····あの·····」


こんな事聞くのは、絶対に変だ。
こっちの方が嫌われるかもしれない。不安に思いながら、しかし、結局問いかけてしまう。


「····嫌いにならない?」


しばらく返答は無かった。
悲しく思った頃、溜息にも似たつぶやきが聞こえた。


「くだらない」

「·····ぁ·····───」









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