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〖140〗傷
しおりを挟むシオンは手渡されたタオルを受け取った。
「ありが··········───っ!」
覚束無い足元が、ツルリと滑る。
水を出しっぱなしのシャワー口がひっくり返る。
シオンは広い胸元に抱きとめられた。
ジェイが、タオルと一緒にびしょ濡れになってゆく。
やってしまった。
慌てて体制を立て直そうとすると、熱い両腕に引き寄せられた。
「!?!?」
強く抱きしめられる。
何が起こったのか理解するより先に、彼が口を開いた。
「力むな。傷口が開く」
「!」
引き寄せられたのは、そのためだったようだ。
一瞬、抱擁と勘違いしてしまった。
気まずく思っている間に姫抱きされて、再びベットに降ろされる。
軽く体を拭かれ、左足首を引っ張られた。
膝の擦り傷に薬を塗りこまれ、ガーゼを当てられる。
手当は驚く程丁寧だった。
ごつくて傷の多い手。しかし指は長く、綺麗な形をしている。
ジェイが、余った包帯を歯で引きちぎる。
少し厚い、男らしい色気のある唇だ。シオンは慌てて目を逸らした。
仮面をしているのに、どこを見ても格好よく見えてしまう。
どうやら、無意識の中で、余程彼とジルを重ねてしまっているようだった。
「ひゃんっ」
内腿を撫でていた指が、ピタリと止まる。
血の混じった軟膏が白いシーツを汚した。
「脚、閉じるな」
傷口がよく見えないと、低い声が言う。
毛ひとつ生えていない粗末な陰茎が、柔らかく立ち上がっていた。
(なんで?)
シオンはシーツを握りしめた。
彼から全部丸見えだ。
「·····ん·····っ」
傷口に薬が染みる。
カサついた指は、痛みを宥めるように、シオンの足を撫でる。
少し高い基礎体温。
子供扱いするような手つき。
『どこにいても、きっとシオンを見つけ出す』
シオンはベットの上に散らかった服をたぐりよせた。
『約束しよう』
ポケットの中に手を突っ込む。
何度も撫でた鉛を、握りしめる。
『迎えに行く』
「まって」
治療を終えた手が離れていこうとするのを引き止めたのは、シオンだった。
どうかしてる。
褐色の手が、また離れることが怖い。
「行かないで」
そう言い終えるのと同時に、視界が暗く歪む。
「·····っ?」
目の前に、男の仮面があった。
両手は、先程まで優しく脚を撫でていた手に押し付けられていた。
「··········」
「あっ」
首筋に沈んだ唇が、熱いキスを落とす。
身をよじると、股の隙間に膝を挟まれた。
「あ··········っ·····ふ·····」
逃げる余地も、言葉を紡ぐ暇もない。
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