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〖136〗野蛮な海賊
しおりを挟むテイラーがニコニコしながら話しかけてくるが、さっきのやりとりはバッチリ聞こえている。
彼らは、紳士なんかじゃない。野蛮な海賊なんだ。
2人は挨拶を残して、何やら言い合いながら部屋を出ていった。
静寂がやけに冷たく感じる。
薄暗くなった窓の向こうは、相変わらず青一色。
静かで、不気味な船だ。
『んなもん、どうでもいいだろうが!』
ディアゼルの家宝、女神の泪。
あれがどうでもいいなんて訳が無い。
引き止めた熱い手に戸惑った。
離れたくないと思ってしまった。
(これから、どうなるんだろう)
シオンは、ベットの上で両膝を抱えた。
「やってられるか!」
某日、エドワードはとうとう音を上げた。
原因は、鉄格子の向こうで椅子に拘束された男。
彼は目を覚ましてから一言も言葉を発しない。
そもそも、真っ直ぐにこっちを見ているようで、全く目が合わない。
まるで、魂のない機械だ。
「こいつ、言葉通じてねえって。てか生きてんの?」
「面白い冗談だ」
リヒトが肩をすくめる。
エドワードはウンザリしたようにため息をついた。
「とりあえず、腕1本折っちゃっていい?」
「この種の人間に拷問は無駄だろう」
バイモンの末裔。
人類最強の戦闘能力と生命力を持ちながら、兵隊として、実験台として──そしてある時は、凄惨な拷問遊びの玩具としてなぶりものにされた種族だ。
「包帯を取り換えてやれ」
リヒトが、様子を見に来たクレイに言う。
クレイが拘束を外す間も、彼は逃げようとする素振りひとつしなかった。
シャツをめくると、しまらない表情に似合わず、屈強な体付きがあらわになった。
撃ち込まれた弾は三発だ。
普通、死んでもおかしくない重症。破けた内蔵の縫合が必要なはずだが、彼の場合、粘膜同士がくっつき、既に再生を始めている。
恐るべき自己治癒力だ。
「バケモンじゃん」
エドワードが呟く。
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「マジで気味わりい」
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この青年がコロシアムで勝ち上がりエドワードの監視を巻いたなんて、嘘のようだ。
クレイは彼を拘束し直した。
「シオン」
じっと黙っていたリアムが、不意にエルの本名を口にする。
眠たげな瞳が、今度はしっかりと特定の人物を捉える。
初めての反応だった。
彼はシオンになにやら話しかけていた。
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シオンを出汁に情報を聞き出すことが出来るかもしれない。
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