海賊団に攫われた貧民〖イラストあり〗

〖131〗遠ざかる国

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復讐のためだけに生きてきた。

奴隷としての十数年とパンドラへの入団。貢献の末幹部入りを果たした。
今回ヴィンセントの部下として配属されたのも、全てパンドラの計画のうちだった。

そして───この時を待ち望んでいた。

パンドラの情報網から、オルトンの情報をくまなく調べ尽くした。
そしてヴィンセントの動向を探る任務を引き受け、単独行動に移った。

オルトンは祖国を侵略し、バイモンを奴隷族として虐げた。
家族も残酷な死を遂げた。数え切れぬほど味わった痛みと苦しみの中で、必ずオルトンを滅ぼそうと、心に誓っていた。

その後のことなど、考えていなかった。

────シオンに出逢うまでは。








間一髪で奈落の底へ落ちるのを免れたリアムが、崖下から這い上がる。
床にころがっているのは女神の泪。バレンとテイラーの姿はなくなっていた。

そして、シオンもいない。

視界の端で何か動く。
エドワードだ。崩れた瓦礫の間から姿をあらわした彼は、荒々しく咆哮した。


「────クソ！！」


拳は怒りと不甲斐なさを押し殺すため、強く握りしめる。リアムは碧銀の男を探した。

───やられた。
彼らの目的は、桃源郷でもなければ、水晶なんかでもなかった。

彼らは、シオンがエルだということを、既に知っていたのだ。

ゴゴゴゴゴ──────。

地鳴りが大きくなってゆく。


「おい、なんでそいつを担いでんだよ？！」


駆け寄ってきたエドワードがギョッと目を見開く。
背におぶったのは、半分死人のような男。


「パンドラの野郎は、全員ぶっ殺してやる」


殺意と共に短検を取りだしたエドワードを置いて、リアムは数メートル上の崖へ飛び移った。


「こいつは元幹部だ。連れ帰って情報を聞き出す」

「はぁあ？！」


海水が上がってきている。
あとのことは、一度船に戻ってからだ。

1時間後、オルトンは永遠に海の底へ沈んだ。
 




















島からはいくつもの船が出港された。
内側と外側、両方から地上が崩れてゆく。

シオンは船のデッキにしがみついて、遠くなってゆく島を見つめていた。


「ディ・カルト号です」


この船を作った職人から作られた名前だと、隣に立ったテイラーが云う。
船は恐ろしい速さで海を進んだ。

先進国オルトンが誇る最新ヴィクトリア号とも、どんどん差が開いてゆく。
やがて、辺りは青と水色だけになった。

日は高く昇っていた。

シオンは部屋を与えられ、シャワーを浴び、新しい服に袖を通した。
恐れていた酷い待遇とは、違っていた。

暫くすると、部屋にいたテイラーがノブに手をかけた。
出ていくつもりだろうか。