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〖129〗弱者と強者
しおりを挟む怖い。
彼らと一緒にいて、何かができる気になっていた。けれど本当は、自分は変わっていなかった。
怖くてベットに潜り込んでいる、小さな頃の自分と、何も変わらない。
「シオン」
すぐ後ろから、優しい声が名前を呼んだ。
驚いて振り返る。
そこには、ロミオがいた。
「おいで」
「!」
伸びてきた手を振り払う。
彼は強者だ。
その手で、人を殺し、様々なものを破壊する。
自分は弱者。
どんなに優しくしてくれたって、対等にはなれない。
彼らといる限り、侵され、支配される存在だ。
「一緒に行こう」
眠たげな声が言った。
シオンははたと思考を止めた。
「·····なんで?」
彼を見上げる。
青い光の中に佇む青年は、透けて見えるほど穏やかな表情をしていた。
ロミオの考えていることはいつだって分からなかった。
だから、そんな言葉は、なにかの聞き間違いだ。
「シオン、欲しい」
「··········?」
彼も、宝を探すために、「エル」が必要なのだろうか。
しかしそれなら、なぜ水晶を破壊したのか?
「なんで·····?」
分からなくて、同じ言葉を繰り返す。
「一緒にいたいから」
ロミオは独り言みたいに言ってから、考えるように宙を眺めた。
まるで、広い空間から、言葉を探しているみたいだった。
目が合うと、長い足がそっとかがみ込む。
硬い指の先が、頬を撫でた。
「かわいい」
「へ··········?」
柔らかい声が、鼓膜にくすぐったい。
「守りたい」
初めて向けられた言葉と感情だった。
不思議な魔力を持つルビーは、じっとこちらを見つめていた。
「一緒に行こう」
シオンは言葉を失った。
伝わってくるのは真剣な想いだけだ。
直ぐに連れ去ることが出来るはずの大きな手は、壊れ物に触れるように、こちらの頬を撫でている。
信じられない思いだった。
「行かない····」
シオンは首を振った。
ロミオはわからなさそうな顔をしてから、やはり優しい指先で唇を撫でた。
崖の一部が剥がれ落ちる。
ロミオの肩口に、紫が光った。
───パンッ。
軽快な銃声が響いた。
目の前の紅い瞳孔が少し見開かれて、彼は静かに俯く。
「·····ミオ·····?」
───パンッ、パンッ。
今度はそれが、2発連続で続く。
青い世界に新たな赤が差し込まれる。倒れ込んだロミオは、勢いよく壁へ吹き飛んだ。
「───"元"パンドラの愚者が、失礼を致しました」
唖然とするシオンの前で、長髪がなびく。
「またお会い出来ましたね、レディー·····────ああ、いや」
テイラーは数メートル先の岩の上から数歩、こちらへ近づいた。
「我らがエル」
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