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〖120〗泣き虫
しおりを挟む辺り一面が真っ暗になると、身体が宙に浮き上がった。
ガタガタと固い物が擦れ合う音がする。そして、涼しい風が吹き抜けた。
真っ暗闇に、星の光が差し込む。
シオンはエドワードに抱えられたまま、3階の窓から飛び降りた。
敏感な体に振動が響いて、着地と一緒にすこしイってしまう。
涙と声を必死に抑えていたが、酷い顔だっただろう。こちらを見下ろす紫は、以外にもあっさりそれを見逃した。
「ん·····っ」
緩んだ尻の穴から濁った液体がこぼれてゆく。
飛ぶように走るエドワードのせいで、やがてなんのせいだか分からない涙が溢れ出る。
堪えたぶん、洪水のように雫がこぼれてゆく。
また泣いていることを知られたら、馬鹿にされる。
シオンは咄嗟にエドワードの首に腕を回した。
シャツに不快な湿り気を感じ、エドワードは、ふとシオンを見下ろした。
隠せているつもりなんだろうか。
「おい、汚れんだろうが」
シオンがハッとして顔を離す。
とことん愚図な糞餓鬼だ。
泣きあとを残した頬を見下ろしながら、エドワードは思わず呆れてしまった。
「隠すくらいなら、初めから泣くなっつーの」
細い首がコクコクと頷いて、それきり静かに鼻をすする。
変なところで従順だ。そしてさっきからチラチラとこちらを見る目が鬱陶しい。
「エドワード···リアムくんたちは?」
「はっ」
エドワードは鼻先で笑った。
無力な餓鬼のくせに、もう他の奴の心配をしている。
リアムの名前を出す所が地味にムカつくのだ。
さらに言うならば、なぜこっちのことは呼び捨てで、リアムは「くん」付けなんだ。俺の事を舐めてるのか、こいつは?
さっきまでこの身体は、一生懸命に自分を受け入れていたくせに。
「エドワード」
「うるせえな。知らねーよ、死んだんじゃね?」
「·····」
シオンが黙りこくる。
彼はムッとしたようにこちらを睨んでいた。
「なんでそういうこと言うの」
またこの目だ。
"性格が悪い"と言って、自分を非難した時と同じ目。
誰にも向けられたことの無い視線。
幼い頃、そして誰かの気を引きたくてやんちゃをしていた頃、望んでいたはずの眼。
郊外を抜け、林を少し進んだ頃、エドワードは立ち止まった。
そして、湖の中へ、シオンを投げ入れる。
シオンはキャンキャン鳴きながら水中で暴れ回った。
やがてぷかぷかと浮き上がってきて、犬かきみたいな泳ぎ方でこちらに向かってくる。
だいたい綺麗になっただろう。
「着ろ」
店から持ってきたシャツとズボンを投げ渡す。
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