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〖102〗胸騒ぎ
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〈ヴーーーー〉
1回戦終了のブザーが鳴る。
トーナメントを勝ち抜いた強者達は、次々と控え室に流れていった。
シオンが姿を消してから、約半日が経過しようとしている昼時だ。
故意による喪失なのか、彼の身に何かあったのかは、何一つ分からない。
居場所の目星すらついていない。
昨夜急遽集まった4人は、引き続きトーナメントに出場しながらシオンの捜索を行うことを決めたのだった。
「リアムは?」
クレイが先に部屋に戻っていたエドワードへ聞く。
窓の向こうを眺めていた紫の瞳は、徐に相手を捉えた。
「パスだってよ」
「パス?」
「ああ」
コロシアムには、勝ち負けの他にパフォーマンス性の評価と対戦時間の計測がある。
一定以上をクリアすれば、途中の対戦をスキップし決勝まで勝ち上がることができる裏ルールだ。
トーナメント相手の改竄に忍び込んだ際その情報を知ったリアムは、早速一抜けしたというわけだった。
「あいつ、自分だけせこい真似しやがって····」
エドワードがブツブツと文句を言うが、言葉には普段よりも随分と棘が少ない。クレイは小さくため息をついた。
リアムが情報を明かさなかったのは、4人が同じようにスキップを使うことで目をつけられるのを避けるためだろう。
若しもの時勝手がきくメンバーがいれば、自分たち4人にとっても都合が良い。
そしてそんな役目をリアム自身が引き受けたのは、危険が伴う任務の可能性が大きい事、そしてメンバーの中でそれを引き受けるのに適任なのが自分だと判断したからだ。
エドワードの踵が忙しなく床を叩く。
「少し落ち着け」
見兼ねたクレイに、鋭い目尻が釣り上がった。
「あ?」
「苛立った所で、状況は変わらない」
こちらを睨みつけるエドワードに、普段のような余裕はない。
無理もない。
彼は昨夜、初めて任務をしくじるという失態を犯した。
そしてその相手は、今日コロシアムへ姿を現していない。
リアムと同様、スキップを使ったのだ。
敵に出し抜かれた彼の屈辱心は、計り知れないだろう。
「くそ、どいつもこいつも·····」
しかし、どうやら気が立っている最大の理由は、そのどちらでも無いようだ。
クレイは眉根を寄せた。
胸騒ぎがするのだ。
エドワードが尾行していた碧銀の髪の青年──バイモンの末裔の短剣に彫られていたのは、間違いなくあの紋章だった。
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