97 / 217
〖95〗無知な少年
しおりを挟む唇の両端は、均等に持ち上げられる。
「殺っちゃってもいいんすかね?」
近頃腕が訛って仕方ないんすよ、と、冗談めかして言う彼の瞳は、暗闇の中でも爛々と光っていた。
戦うことにこれといった理由は必要ない。ただ刺激が欲しい。それが、バレンが組織に協力している一番の理由だった。
「まぁこの分だと、トーナメントで当たりそうっすけど」
「好きにしろ」
ため息とともに了承の返事をする声は、バレンの遊び事など心底どうでも良いようだった。
「一緒に行動する身にもなってくれないかい」
不満げに口を挟んだテイラーだが、その顔を見るなり、バレンはまたくつくつと笑いを堪え始めた。
「お前見るとオペラ座でのことを思い出してまた笑いが…くくっ…」
無言の圧力をかけるボルドーの瞳さえおかしい。バレンはわざとらしく肩をすくめた。
「ちょ、俺が悪いんすか?」
「とんでもない。顔面に肘鉄をくらったお前には心底同情するよ」
「わはは!」
返ってきた皮肉に、再び声を上げて笑いだすバレン。
遠くを見ていた1もう人の視線は、ふと彼らへ移された。
「愉快な状況だったろうな」
「そりゃもう、色仕掛けしくじって反撃された挙句逃げられたのなんて、エルが初めてっすよ」
「……。」
見てください俺の顎、腫れてません?なんて軽口をたたくバレンは、くすりと聞こえた含み笑いに、驚いて相手を振り返った。
青年は、普段無口な唇に、静かに弧を描いていた。
エメラルドの瞳はじっと海の向こうを眺めている。
テイラーとバレンは顔を見合わせた。
血も涙もない彼が笑むなど、いつぶりだろうか。
整いすぎた美しい顔が、月のあかりにそっと照らされる。
褐色の肌から犬歯がのぞく。バレンは呟いた。
「勿体無いっすね~、笑えば更に数億倍男前なのに…」
「コロシアムでの決勝戦開始と同時に全ての計画を実行する」
男がバレンを無視して告げる。
月が傾く頃、路地裏から彼らの影が消えた。
シャワーを浴び、スラックスに足を通す。シャツを着ようとし、しかしロミオはそれよりも先にシャワールームを出た。
無知な少年は出来るだけ一人にしない方がいい。目を離した隙に何をするか分からないからだ。
血の匂いはすっかり取れた。
飲み薬のせいで気分は良くはないが、気にならない程度だ。
先程シオンが飲もうとしていたのは、普通の成人男性が飲んでいれば意識が飛ぶほどの媚薬だ。
あらゆる毒や薬に耐性のある自分にとっては、あまり効果が現れなかった。
何やかんや世話を焼いているが、本意ではない。
ただ気が付くとそうしていた。
1
お気に入りに追加
956
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる