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〖94〗狙い

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公の理由として、内側に旅人を受け入れるのは、身内婚による障害児の出産を避けるためとなっている。

しかしそれはオプションに過ぎない。
真の狙いはコロシアムでの大量虐殺にあった。

始まりは、オルトンの歴史を遡ること数百年前。

  その昔、国は資源豊かな土地だった。
ある年、次期王を巡り2人の王子が激しく対立し合う。慈悲深く知的な長男、明るく正義感の強い次男は、それぞれ国を思うが故に、意見のすれ違いを機に分裂してゆく。

王が病に伏すと、それから7年間、激しい戦争が続いた。

たくさんの命が犠牲になってゆく中で、ある人物は土地の異変に気づく。
自堕落な三男だった。
戦争中の7年間は、国の外側でたくさんの兵士が戦死してゆく中、内側は不思議な程潤っていった。

気候は常に暖かく、食べ物は底を尽きない。働かずして食にありつくことが出来れば、暇を持て余した人々は贅沢を追求するようになる。

遊び呆けていた第3王子には不思議な力があった。
死んだ者の魂を見る力だ。身体が息絶えても、魂は消滅しない。ある一定の道筋に沿って流れてゆく魂炎に興味を持った第3王子は、それを追いかけ、国の核に辿り着いた。

やがて"推測"は核心へと変わった。
彼は実の兄である第1王子、ついで第二王子を暗殺し、王位継承を果たした。
残虐な王は、国を二極化した。
高い堤防を建て、"核"に近い土地には裕福な者、美しく若く健康な男女、その子供というように、内側に住む市民を選んだ。

壁の外側には老人や貧しい民が追いやられた。
そして下層から順に、虐殺が行われた。


土地は生きている。魂を吸収し、肥えるのだ。


国内の犠牲にもいずれ限界が来る。
オルトンでは新しい市民の受け入れを条件に殺し合いが行われるようになった。

一攫千金のチャンスと言っても過言でないこの争いは、旅人たちを集めるには十分すぎるフィールドだった。


「···そこで攫ってしまおうかとも思いましたが···時期的には、まだ早いかと」

「そうなんすよ。力ずくが駄目だって言うんでいいムードまで持ってったんすけど···くっ···ふふ···」

深夜、街灯の明かりさえ消えた街の路地裏に、3人の男の影が浮かびあがった。

「ボス、あの少年は·····」


未だ思い出し笑いを繰り返すバレンへ呆れたような横目をなげつつ、テイラーは1度言葉を切る。

遠くを眺めたままの青年は、どこか上の空だ。


「あ、そういえばボス」


思い出し笑いを止めたバレンが、形の良い顎へ人差し指を添えた。


「トーナメントの参加者の中に手応えありそうな奴が数人いたんですが、あれはボスの知り合いっすか?でなければ…」






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