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〖93〗ちょうだい
しおりを挟むなにか気に触ることをしたのだろうか。
それにしたって、言葉にしてくれないと何も伝わらない。
すぐ横に立った長身の男を見上げ、睨みつける。
素早く彼の手へ腕を伸ばすと、ロミオはすいと腕を上へ持ち上げた。
紛れもなく悪意だ。
こうなったら意地でも取り返そうと背伸びをするが、シオンの努力は虚しかった。
「あっ」
青年は親指だけで蓋を開けると、それを一気に飲み干してしまった。
蒼銀に透ける髪の間から、無感情な目がこちらを見やる。シオンは呆気に取られた。
ひどい。何でいきなりこんなことをするんだろう。
細身の割に驚く程鍛え上げられた胸板をたたく。
「ちょうだい」
彼は無気力に首を振った。
「なんで意地悪するの?」
本当にどうしたんだろうと思うが、ロミオは変わらぬポーカーフェイスで、水道の方へ視線をやる。
水が飲みたければ蛇口から飲めということだ。シオンは今度こそ言葉を失った。
ロミオはバスルームの向こうへ姿を消す。シオンは引き止めるすべもなく、頑丈な後ろ姿を見送った。
今までの彼からは理解し難い行動だ。
本当に、相当嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
無理やり着いてきたことを怒っているのだろうか?それとも、この前叩いた事を根に持っているのだろうか。はたまた長い間おぶらせたのが不味かったのだろうか。
思い当たる節が有りすぎる。
しかし、今見捨てられてしまったら、他に頼れるあてがない。
否が応でも許しを得るしかない。
(どうしよう)
平謝りし続けるくらいしか術は思いつかなかった。
ふと、奥にもう1つ扉があるのを見つける。
開けると、白を基調とした部屋の中央に、キングサイズのベッドがあった。
富裕層は大きなベッドを部屋の中央へ置いて眠るのが主流なのだろうか。納得する純粋無垢なシオンは、この館の用途も、先程ロミオがかたくなに飲ませなかったドリンクが何なのかも、理解出来ていない。
扉のすぐ側に、宝石のあしらわれた押しボタンを見つける。
『ベッドルームには押しボタン式で身も心も開放されるアロマ香煙を───』
コンシェルジュの言葉を思い出し、シオンはボタンを軽く押した。
暫くとせず、ほんのり甘いアロマの香りが香ってくる。
柔らかくていい匂いだ。この香りで、ロミオも少しはリラックスしてくれれば、もしかしたら許してもらいやすくなるかもしれない。
そう思って取った行動が、まさかとんでもない事件を引き起こしてしまうことになるなど、この時のシオンは思いもしなかったのだった。
十年に一度、オルトンが新しい住民を受け入れるのには理由がある。
──否、市民権獲得を巡り多くの人々が命を落とすことに、だ。
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