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〖92〗望まぬ恩恵

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「プラチナ、ゴールド、シルバーとございますが、お部屋はどのクラスをご希望でしょうか?」


館の扉をくぐると、すぐに暖かなゴシック調のエントランスが広がっている。


「当館では特にプラチナクラスがお勧めでございます。家具は全て一級品、ベッドルームには押しボタン式で身も心も開放されるアロマ香煙をお楽しみ頂けます。お食事は一流シェフが腕によりをかけて…」


シオンは困惑してロミオを見上げる。
漠然とした不信感は大きくなる一方だ。

果たしてここは、本当に噂の桃源郷なのだろうかと。

ロミオはコンシェルジュの提案にあっさりと頷き、胸ポケットからゴールドの配われたカードを取り出した。


「これは·····」


驚いたように目を見開いた男が、待機していた若いフットマンに目配せする。
慌てふためき部屋を再確認しに行くフットマンの様子からして、カードは何らかのユーティリティがあるらしい。

彼は世界屈指の資産家であるヴィンセントの手下だ。

まさかその恩恵を自分も受けることになるとは。シオンは胃がキリキリと痛んだ。

通されたのは想像よりずっと広い部屋だった。
泳げるほど広いバスルームとバルコニー、衣装室には鮮やかなドレスから男性もののスーツ、着勝手の良い部屋着まで用意されている。

寛ぐためのソファは金の刺繍が施され、サービングトレイには、用意された茶菓子がこれでもかというほど並んでいた。


「あの、ミオ…」


遠慮がちに声をかけるが、今の彼はとことんこちらに無関心だ。

自分から駄々をこねておいて何だが、付いてきたことを後悔していないといえば嘘になる。

ロミオが突然上着を脱ぎすてる。シオンは慌てて視線を逸らした。

そうして逃げた目線の先に、手のひらサイズの瓶を見つける。

リボンまで付けられた、可愛らしい容器だ。 

「lov  Gatrenk」。


(lovって、なんだろう?)


Gatrenkは、たしか飲み物を指す文字だった気がする。かろうじてそれだけを読み取り、喉が渇いていたシオンは瓶を手に取った。

蓋を回し開けた所で、横から伸びてきた青白い手に、それを奪い取られる。


「!?」


振り返った先に、彫刻のような腹筋があった。気配もなく近づいてきたロミオは、奪い取った瓶を元の場所へ戻す。


「……?」


嫌な動悸を落ち着かせつつ、もう一度その瓶に腕を伸ばす。こんどは手にするより先に、瓶を奪い取られた。


「なんで取るの?」


我慢できず尋ねるが、少し前までは珍しく言葉を発していたはずの口は、頑なに閉ざされている。








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