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〖90〗第二の扉
しおりを挟む「何でもするから!ほら…なんか、手伝ったりとか、囮?とか…」
非力な少年に出来ることなど、この先には何ひとつない。明らかに"不要"だ。むしろ足でまとい以外の何物でもない。
見つめ返してくる子犬のような瞳は、疑うという事を知らないのだろうか。
彼は一体なぜ、無条件に自分を信じるのだろう。
そしてなぜ自分は、なんの力もないこの少年を無視できない。
うんともすんとも言わず前に向き直ったロミオの態度を了承と決めつけて、シオンはロミオのあとを追い続けた。
ぶかぶかの靴は擦れる度足首が痛む。シオンは、それでも彼の隣を歩いた。
1時間は歩いただろうか。
どこへ辿り着くのか、はたまた国の中央には本当に桃源郷があるのかすらわからなくなってきた頃だった。
足元は、柔らかい土から一変し、硬く平たい床を踏む。
足音響き渡る。広い空間に出たらしいが、木々が無くなると、周りは完全な暗闇に包まれた。
いつの間に建物の中に入ったのだろうか。
ズキリと、足首がいたんだ。前のめりに躓いたら、突然何者かに腕を掴まれ、ひょいと身体が宙に浮いた。
氷のように冷たい手が、スカートの中の腿へ直に触れる。
「ひぁん」
思わず高い声をこぼす。
内ももに添えられた相手の指先が、ぴくりと動く。相変わらず言葉はない。
ヴィンセントの手先であり、何らかの目的を持ってオルトンの禁忌を犯している者。そして人を殺めることになんの躊躇いもない危険な人物。
けれど彼は───。
恐怖と、躊躇い、そして疑問。
体温も感情も感じ取れない相手だが、この行動は、自分の為以外の何物でもない。
言葉など無くても、彼の腕が抱きしめてくれていることに変わりはない。
気恥ずかしくなってしまって、シオンは慌てて硬い胸元に顔を寄せた。
金具らしきものが額にあたる。かすかに鼓動が聞こえると、混乱していた脳内は少しずつ落ち着いていった。
目の前が真っ暗な程の暗闇だから、頬が火照ってしまったことをバレる心配はない。
しばらくすると、ロミオの足が止まった。
片手でシオンを降ろした彼は、徐に前へ腕を伸ばした。
「え·····うわっ·····」
目の前に壁があった。ロミオが手を添えると、石の扉が浮かび上がる。
暗闇に、薄灯りが差し込んだ。
ロミオはやはり一人で歩いていってしまう。シオンも慌てて後に続いた。
階段をおりた先にあったのは、倉庫のような空間だった。
床には、分厚い本が何冊も積まれている。レンガの壁に圧迫感を覚えつつ、ゆっくりと足を踏み入れと、扉は重たい音を立てて閉まった。
古い黴と埃の臭いが充満していた。
周りを見回しているシオンを置いて、ロミオは本の間をすり抜けてゆく。
奥に行くと、今度は上へ続く階段があった。はばのせまい段差をのぼりながら、足元を見下ろす。
階段には、ガラスの破片が飛び散っていた。
ロミオが靴を履かせてくれなければ、今頃足の裏は血だらけだったかもしれない。
幅の狭い段差を上るうち、涼しい風が頬を撫でた。
この世のユートピアと呼ばれているオルトンの内側とは、如何なるものなのだろうか。
出口が見えてきた。
錆び付いた臭いに嚔をして、シオンは胸元を握りしめた。
第二の扉が開かれた。
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