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〖86〗パーティ
しおりを挟む気にするのはやめよう。欲望のままスイーツのテーブルへ向かう。
食べ物の匂いが、鼻腔から食欲を唆らせる。
さて、何から食べよう。
皿へ手を伸ばした時、オーケストラの演奏が大きくなった。
談笑していた周りの老若男女が、各々食事の皿をテーブルに置く。
彼らは2人組で手を取りあい、ホールへ集まってゆく。
「…?」
会場の明かりが少し暗くなる。
ほろ酔いのマダムが音楽に身を揺らす。
演奏はワルツに切り替わった。
「可憐なレディー」
「·····はい?」
すぐ後ろから声をかけられる。
優しげな笑みを浮かべる紳士が、シオンへ恭しく礼をした。
「もし宜しければ、私と踊っていただけないでしょうか」
柔和な雰囲気の男性だ。
しかし整った顔がぼやけて見えるのは、先程まで規格外の美形を直視していたせいだろうか。彼の言葉に、シオンはこれからダンスが始まることを理解した。
「えっと…」
舞踏の場に来たこともなければ、踊りを習った事さえない。
(どうしよう)
視線をさまよわせた時だった。
シオンの頭上に、影が落ちる。
隣に人の気配を感じるのと同時に、左手を掬い上げられた。
「あ…お連れ様がいらっしゃったんですね、失礼…」
声をかけてきた男性は、バツが悪そうにシオンから離れてゆく。
隣にいたのは、背の高い男だった。
目元には仮面を付けている。
高い鼻とシャープな輪郭がこちらに傾いた。呆然と見上げていると、熱い唇が手の甲に触れた。
「へ…っ?」
仮面の奥の瞳と視線が絡まる。
深く鮮やかなエメラルドだ。
「…っ…」
わけもわからず胸が締め付けられる。
珍しいと言われる黒髪に、褐色の肌。こんな知り合いはいないのに、どこかで会ったような感覚に駆られた。
黙ったままでいると、了承と受け止められたらしい。
もう片方の腕が腰へ回される。
シオンはホールの中心へと導かれた。
強く引き寄せられ、前へ出た左足が相手の足を踏みつけそうになる。しかし、彼はそれを見越したように身を引く。
流れる音楽に合わせ、シオンの体は前へ出た足を軸に一回転する。
受け止められ、近づいた距離に驚いて後ずさると、今度は彼がこちらへ1歩を踏み出した。
同じことを繰り返し、それが曲と重なり合っていることに気づく。シオンは、導きの通りに覚束無い足を動かしてみた。
音楽に合わせて踊るのは、今までにない楽しさだった。
夢中になっていたシオンは、はっとして相手をみあげる。
こちらをじっと見つめる瞳は、まるで野生獣が得物を見つけたような鋭さだ。
けれど、恐ろしくはない。懐かしさを感じる瞳から、視線を離せなくなる。
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