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〖82〗興味

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「ご令嬢の方です」


バレンの言葉を遮るように、落ち着いた声が言った。

サイドテーブルにグラスを置いたテイラーが、身体ごとシオンへ向かい合う。


「何かお困りではありませんか」


麗しい男の顔立ちにぼうっとするのは、ワインのせいだろうか。視線をそらそうとすると、長い指が顎に添えられた。
導くように、彼を見上げさせられる。


「あ…テイラーさ…」

「私達には分かるのです」


鋭い切れ長の目元が、シオンを見つめて離さない。


「特に貴女の瞳を見れば──」

「…っ」


うっとりするほど美しい瞳がほくそ笑む。
ふと、片手をもう一人の男に包まれた。


「貴女の力になりたいんです」


耳元で聞こえた甘い声に、思わず裏返った声が漏れる。


「·····へ·····?」


首筋をテイラーの手のひらが撫でる。

身体が熱い。
酒のせいにしたって、異常な倦怠感だ。


「俺達だけに、教えてくれませんか?」


バレンの囁きはさらに近づいて、鼓膜のすぐ近くで響く。首筋に落ちた吐息は、火傷しそうなほど熱い。


「ひ·····っ」


「どんな秘密も必ずお守りします。話すだけでも、きっと楽になりますよ」


ねえ、と、覗き込んだ顔が、妖しく笑う。テイラーはシオンの手の甲に口付けをした。


「知りたいのです」


よく似た大人の男の声が、両耳から吹き込まれる。

誰にも言えない秘密。1人で抱え込むにはどうしようもなく不安で、心細くて、恐ろしい秘密。

リヒトたちに惹かれれば惹かれるほど、ジルや、彼らの一味に滅ぼされた故郷を裏切ることになる。
いつの間にか、生きる希望だったジルのことさえ、思い出す時間が減ってきている。

ジルが預けてくれた硬貨と、リヒトたち4人の持つコア。
浮き上がった疑惑に気付かないふりをして隠し続けるのは、今度はリヒトたちを裏切ることと変わらないのでは?


「レディー、そんな顔をしないで」


ぐるぐると頭の中を占領しだした恐怖を、優しげな声がかき消した。
顔のそっくりな男達は、こちらの心の内を見透かすように微笑む。


「なんだか、部屋が暑いですね」


テイラーがシャツのボタンを緩める。薄暗闇の中で男らしい鎖骨が浮き出た。


「·····んっ·····」

「レディーも、窮屈そうだ」

「…あっ」


後ろから伸びた大きな手が、腰を撫でながらリボンを解す。


「まって·····」

「駄目ですよ、ご令嬢」


拒もうとすると、テイラーに両手を握られた。

決して強引ではないのに、有無を言わせない手つきだ。
指の間に指を絡められる。ゾクリ、と、神経を逆撫でされるような感覚が走った。


「ゃ·····っ·····」


唇が触れ合う寸前、シオンは顔を背けた。


「··········」


視線の先で濡れた唇が言葉を失う。一度動きをとめたテイラーは、シオンの頬にキスを落とした。






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