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〖81〗vip
しおりを挟む下を見下ろす。舞台に向かって数千の観客席が並べられ、上を見上げると、天井には金のシャンデリアがぶら下がっていた。
オペラハウスに来た事のないシオンでもわかる。これは、所謂VIP席というやつだ。
「さぁ、ソファにおかけください」
促されるままソファに腰掛けると、両隣に2人が座る。
照明はさらに暗くなってゆく。シオンはドキドキと胸を高鳴らせた。
劇は素晴らしいものだった。
舞台は錚々たる歓声と生演奏で幕を閉じる。
頭の中には、ヒロインの美しい高音が未だこだましている。
しばらく呆然としていた。
「楽しんで頂けましたか?」
左側から、こちらを伺うような声が聞こえる。
「あ」
彼らに礼をするはずが、自分が楽しんでしまった。
それに、ここはいくらしたのだろう。不安げに2人を見上げるが、彼らは同じ顔で微笑むだけだった。
「あの、」
隣で伸びをしたバレンに声をかける。彼は慌てたようにあくびをかみ殺した。
まさかあの素晴らしい歌劇を聴きながら、眠りそうになっていたのだろうか。
訝しげな目を向けつつ、シオンは、これでは礼にならないと呟いた。
バレンは形の良い眉をくいと持ち上げた。
「うーん、こんなに美しいレディーのお時間をいただけたのに?」
歯の浮くようなセリフも、彼には様になる。
バレンは端に待機していた従業員へ声をかけた。
従業員が礼を残し出ていく。
しばらくとせず、彼は黒いボトルを持ち戻ってきた。
「レディー、ワインはお好きですか?」
しなやかな指が、赤紫の液体が注がれたグラスをこちらへ寄越した。
飲酒は15から可能だが、シオンは口にしたことが無かった。
いままで、嗜好品に金をかける余裕はなかった。
当たり前のように酒が好きかと聞いてくるバレンの様子からして、貴族の人間は酒の嗜みがあることが当然のようだ。
差し出されたグラスを突き返す訳にも行かない。シオンは曖昧に頷き、それを受け取った。
テイラーがワインを一口含んだのにならって、恐る恐るそれを飲み込む。
渋い苦味に顔をしかめるが、その後に広がったのは、まるで咲きたての花のような香しさ。スッキリとした酸味だ。ワインはあっさりと喉を通っていった。
「コロシアムに」
口火を切ったバレンが、気さくな笑みを称えたまま問う。
「知り合いが参加しているとか」
シオンはどきりとした。
質問の意図は分からないが、昨日会場にいたということは、バレンもコロシアムに参加しているのだろう。
殺し合いをする相手の連れなんて、憎らしいに決まっている。
「えっと…」
「あー!違うんすよ」
シオンの困惑を読み取ったバレンが、両手を振る。
「興味があるのは参加している方じゃなくて」
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