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〖80〗オペラハウス

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しかしあの様子だと、ロミオはヴィンセントに自分のことを話していないようだ。

少し安堵したところで、今日のトーナメント終了を知らせるブザーが鳴った。
気づけば昼下がりだ。
コロシアムから、勝ち残りの挑戦者たちがぞろぞろとでてくる。シオンは黒髪を探した。


今のリアムは、黒髪。偶然だが、自分の髪色とおなじ色だ。
幸い、黒髪の持ち主はめったにいない。
わかりやすい目印を探して視線をさまよわせる。


「·····!」


  門から、くせ毛の黒髪が姿をあらわした。
どきりと鼓動がはねる。·····が、すぐにリアムではないと気がついた。

褐色の肌。服装も普段の彼とは違っていた。
人違いだ。残念に思いながらも、目に止まった彼から視線が離せなくなる。

頭の片隅で、何かが引っかかる。
陰に隠れた顔を覗こうとするが、彼は人混みに紛れて見失ってしまった。


「……うーん…」


追いかけようかとも思ったが、見ず知らずの人間の後をつけるのは気が引けた。




昼食後、シオンは街へ向かった。

全く気が進まないが、バレンとテイラーに会うためだ。
夕日が消えそうな頃、広場の時計台の下へ辿り着く。
少し早すぎたのか、2人はまだ来ていない。

ドレスは重たいし、コンタクトがゴロゴロする。
あと数分待って来なければ、帰ってしまおう。
不快感に眉根を寄せていた時、シオンの目の前に、大きな馬車が止まった。


「…?」


開かれた扉から長い足が伸びる。
馬車から顔を出したのはバレンだった。

























人々の談笑の声が、部屋の天井高くまで響く。

やってきたのは大規模なオペラハウスだ。シオンは辺りをキョロキョロと見回した。

足を引き込むような分厚い絨毯は、村で生活していた頃の寝床よりも、ずっと寝心地が良さそうだった。
ホールへ進む人の波から脱線する。テイラーが、待機していたコンシェルジュへ何やら耳打ちした。


「こちらへ」


案内されたのは最上階の個室だった。
緋色一色の部屋だ。上質なソファの前に、分厚いカーテンが閉められていた。


(ここは·····?)


ドレスの裾を握りしめていたシオンの手が、そっと掬われる。

テイラーがこちらを見下ろした。芸術品のように整った顔立ちが、一瞬ゾッとするほど冷たい笑みをのぞかせる。
手を引っ込めようとすると、引き寄せられ、3人がけソファの中央に促された。


「あの、ここは·····?」


シオンの問いかけに答えるように、バレンが目の前のカーテンを開いた。


「·····!」


シオンは感嘆を漏らした。
そこは、歌劇場が一望できる個室のテラスだった。





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