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〖79〗不思議な少年
しおりを挟む支配する人間にはふたつの種類がある。
弱者だと見定めれば侵食しようとし、自分より強者だと分かると大人しくなる者達。
そしてある者たちは、権力という名の力を振りかざし、他人を支配しようとする。
ロミオの種族───バイモンはそんな彼らの格好の餌食だった。
先祖は歴代の戦争の最前線に立たされ次々と命を落とした。
生命力も強く、ちょっとやそっとのことでは死なない。捕まった生き残りは、競売場で高額で買い取られた。
利用される"道具"そのもの。そして利用価値が無くなれば捨てられる。
抗うすべはない。
力では壊すことの出来ない鎖で、繋がれているのだ。
「あっ」
不意に高い声が響く。
聞き覚えのある声だ。彼の方へ、自然と視線が向いた。
自分に命令してきた者達よりも、ずっと弱く無力な少年。それなのに、彼は、妙に存在感がある。
自分自身へむけられていると感じる意識は、今まで感じたどれとも違っていた。
柔らかな温もりは、その身を守る力も無いくせに、なんの躊躇いもなくこちらに触れた。
「ミオ!」
理解不能で、不思議な少年だ。
「あのさ、ミオ…」
シオンは彼が行ってしまわないよう、慌てて口を動かす。ロミオはぼうっとこちらを見下ろしたまま、立ち止まっていた。
透き通る赤い瞳には、一切の濁りがない。
綺麗だと思っていると、冷たいものが頬に触れた。
「……?」
少しかさついた指が、さわさわとシオンの頬を撫でる。
その表情は相変わらずピクリともしない。
「な、なに?」
吸い付くような肌にロミオが確かに躊躇ったのを、シオンは知らない。
「まあ、ご覧になって」
ひそひそと聞こえてきた声に、シオンはハッとして周りを見渡した。
富裕層側のホテルから出てきた女性2人が、こちらへ好奇の視線を向けていた。
「コロシアムの前で」
「戦士と貴族令嬢の禁断の恋よ」
「お似合いですこと」
見当違いな解釈が聞こえてくる。
シオンは慌ててその手を振り払った。
「……。」
パシン、と、乾いた叩音が鳴る。
意外にも強く振り払ってしまった。
「ごめん」
相手はこちらの秘密を握っているというのに、暴力を振るうなどとんでもない。
そっと顔を見上げる。
水銀に透ける髪の間から、眉目秀麗な顔が覗いた。
シオンは、背の高いロミオから身体ごと視線を逸らした。
こんなに美しい男と自分がお似合いなわけが無い。
相手はこちらから興味を無くしたように離れてゆく。
「あ…」
待って、と、声をかけようとし、シオンは立ち止まった。
コロシアムから、護衛をつけた男がでてくる。
ヴィンセントだ。ロミオは彼の後ろへつくと、歩き去っていった。
ガックリと肩を下とす。
本題を言えぬまま、機会を逃してしまった。
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