上 下
75 / 217

〖73〗ミオ

しおりを挟む



結局コロシアムでの戦闘を見ることは叶わなかった。

日が暮れる頃、クレイに手を引かれホテルへ戻る。


「食うか」


途中、やっと話しかけられたと思えば、干し肉を差し出された。
おずおずと受け取る。確かに、腹が減っていた。


「エドワードは、大丈夫だったの?」

あんな意地悪なやつは、戻ってこなくたって構わない。そう思いながらも、やっぱり安否が気になって聞く。


「ああ」


クレイは、なぜか釈然としない顔だった。

ホテルまでつくと、彼はさっさと来た道を戻ってゆく。

シオンも急ぎ足にホテルへはいる。
今日は疲れた。もう一度シャワーを浴びて、あのふかふかのべッドで眠ろう。


「·····あれ?」


エントランスに入ったところで、見覚えのある髪色を見つけた。



























水色がかった白銀の髪からシャープな顔がのぞき、シオンは、うっと目を細めた。

ミオと名乗っていた青年だ。

彼の表情は、クレイのそれとは比べ物にならぬほど無機質にだ。
あんな所でぼうっと突っ立って何をしているのだろう。
気になるが、自分は身分を偽っている身。これ以上関わらない方が良いだろう。

さっさと部屋に戻ろうと踵を返しかけた時、視線の先で、赤いものが光った。

ミオの手元からだ。
ポタリ、ポタリと、赤い雫がこぼれ落ちる。


「·····?」


分厚いエンジの絨毯に溶け込む、それよりも鮮明な赤色。
シオンは目を見開いた。

声をかけるより先に腕を掴む。
生気の無い雰囲気に似合わず、彼の腕は以外にもがっしりとしていた。


「··········。」


振り返った明るい赤の瞳が、キラキラと光を反射する。
シオンは途端に不安になった。


「血、流れてる」


その事実にさえ気づいていなさそうだ。こちらを呆然と眺めていた目だけが、掴んだ腕に流された。


「あ…覚えてる?」


自身を指さして問う。
彼は僅かに頷いた。
シオンはほっと息をつき、すぐに眉間を険しくさせる。


「どこか怪我してるんでしょ?」


早く手当しないと。
───そう小さな唇が動くのを、ロミオはじっと見つめていた。


「ちがう」


真正面から見上げてくる瞳に返答する。
腕に温もりを感じる。
温くて、柔らかい。少し早い動脈の気配がした。

この少年からは、殺気も、恐怖も、侮蔑や憎しみだって感じられない。
だから、こちらを掴んだ非力な手をどう処理すれば良いか分からない。


「じゃあ、なんで血が·····」

「殺したから付いた」


聞かれたものに答えると、1秒後、ぱっと手が離れていった。


「コロシアムの、相手の·····?」











しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...