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〖65〗クロ
しおりを挟む小さい頃はこうやって絵を書いたりしたものだ。
立ったままの青年は軍服を着ている。海軍にも見えるが、服に紋章はなかった。
(そういえば、今の僕の格好·····)
令嬢がこんな真似をして不審がられないだろうか。
恐る恐る相手を見上げるが、彼は相変わらず無表情でこちらを見下ろしていた。
「これ、あげる」
「·····。」
ぶらりと下がったままの手に地図を握らせる。
「ぼ···わたし、急いでるから。あの·····頑張ってください」
わかれる寸前、唇がかすかに動いた気がした。
シオンは地上への道を進みながら、そっと後ろを振り返る。
彼は未だそこに佇んでいた。
「·····。」
水彩銀の刃が、目元へ無数の影を落とす。
青年は、先程まで握られていた掌をおもむろに見下ろしていた。
『黒髪に黒い瞳、10代半ばの少年だ』
ヴーーーーン。
1回戦終了のブザーが鳴り響く。
熱気とともに、ドーム中を男たちの雄叫びが湧き上がる。
血色の無い唇が、無聊に言葉を紡いだ。
「クロ、クロ、男」
─────────────────
1回戦を終えたエドワードはついに顔をしかめた。
観客席に、ブロンドの少女がいる。
少女──否、少年。
関わるとイライラする餓鬼だ。放っておこうと思うのに、似合わない金色が視線の端にチラつく。
彼は人の波に流され観戦席を進んでいた。
困惑した表情を見る限り、そっちの方向に行くのは本意では無いようだった。
エドワードは荒っぽく頭を掻いた。
あの様子だと、まだコロシアムでの対戦は目にしていないらしい。
ここでは、ショーのように虐殺が繰り広げられる。
一体何しに来たのだ。縛って転がしておけばいいものを、リヒトも全く詰めが甘い。
「·····くそ!」
またべそをかかれでもしたら面倒だ。
程なくして、エドワードは彼の方へ向かう事になった。
人混みをかき分け、階段を3段飛ばしに登る。
「さっきの参戦者だ!」
客たちの野次を無視して細い腕を掴みかけ───しかし、掌は宙を切った。
反対側の通路から、何者かがシオンの手を引く。
傾いたシオンの身体は、背の高い相手に抱きとめられた。
シオンの隣にいたのは、見覚えのあるシルエット。昨日居酒屋にいた男のひとりだ。
二人は人通りの少ない通路を進んでゆく。突き当たりを曲がる寸前、男の流し目がこちらを見下ろした気がした。
「レディーは人混みがお好きなようで」
茶化すような声の主をみあげる。
稀にいない男前だ。シオンは、あ、と声を漏らした。
「この前の、騎士様」
「あはは、騎士様は勘弁して下さいよ」
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