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〖60〗2人組の男

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エドワードとクレイが振り返った先に立っていたのは、顔のそっくりな2人組の男だ。


「賑わってるもんで」


ぶつかった方の男が気さくな笑みを浮かべる。
クレイとエドワードは顔を見合わせた。

人あたりの良さそうな若者。1度見れば忘れることのなさそうな顔立ちは見覚えがないが、妙な既視感があった。


「迷惑ついでに、相席してもいいですか?」


お願いしますと、相手は両手を合わせてみせる。
見たことの無い軍章が刺繍された制服を着ている。恐らく、仕事を終えた憲兵だろう。

エドワードは隣に座った彼らから視線を外し、新しい酒を追加した。


「やっぱ人助けした日の酒は最高っすねぇ」

「ナンパの間違いじゃないのかい」

「紳士の本分っすね」


調子の良いくせ毛の方の男がぐびぐびとジョッキを飲み干す。軽口を叩く彼に、長髪の男は冷たく言い返した。


「お前の辞書にある紳士と俺の知ってるそれは別の単語みたいだよ」


クレイは聞き耳をやめて、乾き始めた喉へ酒を流し込む。
怪しい点はない。女と酒が好きなただの男たちだ。

  夜は老け、酒場のやかましさはいくらか落ち着いていった。 
ザルのように酒を飲み続けていたエドワードは、酒の味に飽きてきたようだ。彼はため息に近い欠伸を漏らした。


「エルのやつ、本当に女になればなぁ。したら少しは優しくしてやんのに」


発言は、エルへ酷く当たったことを後悔しているようにも聞こえる。
クレイが時計を見上げる。
時刻は深夜1時を回っていた。
そろそろ、今日のコロシアムに備えた方が良さそうだ。

隣の席の男達が立ち上がる。彼らは1度こちらに背を向け、しかしまた振り返った。


「ありがとうございました。それじゃあ」


くせ毛の方の男が、ヒラヒラと手を振り去ってゆく。


「何だ?あいつら」


エドワードが訝しげに眉をひそめた。
まるで、また今度会う約束をした知り合いのような挨拶だ。

酒屋の喧騒が遠のく。傾いた三日月が、窓の向こうで不気味に笑っていた。



























「んん·····」


覚醒する意識に従って、重い瞼を開ける。
寝返りを打つと体の節々が痛んだ。

肌触りの良いシーツの感触に、昨日の出来事を思い出す。

シオンはベッドから飛び起きた。


《ヴーーーーーン》


暑い耳元には、遠くから、無機質なサイレンの音が響いた。


《第1回市民権獲得希望トーナメント戦出場者は、コロシアムに集合して下さい。繰り返します──》


抑揚のない女性のアナウンスだ。


「さて」


 扉の方から男の声がする。
昨日さんざんこちらを弄んだ、リヒトの声だ。
忘れられるはずもない。シオンは思わず寝たフリをした。













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