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〖54〗気に入らない

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窓の向こうは、夕日の落ちる直前だった。

都合よく解釈してはいけない。シオンは首を振った。

リアムは、男だから女装は変だと言っただけだ。
誰も、女装より元の方がいいだなんて言っていない。


「それも、早く取れよ」


コンタクトはリヒトに入れてもらったものだ。眼球に触れるなど、自分ではとてもできない。


「怖くて取れない」


先程よりも大きな舌打ちが落とされた。


「貸してみろ」


顎に添えられた指は、口調に反し丁寧だ。
鼓動は知らず知らず駆け足になった。

コンタクトの外された瞳に、彼が映る。
こっちの方がよく見える。そう思ったのと同時に、彼の唇が動いた。


「こっちの方が良い」


シオンは慌てて視線を逸らした。


「あとは1人でやれよ」


「う、ん」


ぎこちなくドレスに手を伸ばす。

リボンが絡まって、なかなか外せない。リアムのせいだ。
不意に伸びてきた指が絡まったリボンを解き、紐を引っ張った。

締め付けられていた腹が解放される。
なんだか、恥ずかしくてたまらない、そんな気分だった。


「他人の借りた部屋でムードを作るのはよしてくれないか」


茶化すような声に、シオンは飛び上がった。
いつの間にか戻ってきたリヒトが、扉の前で仕方なさそうに肩をすくめた。


「参加者のリストだ」


リヒトの言葉を無視し、リアムは彼に丸めた紙を投げた。


「一体一のトーナメント式で対戦相手はランダム。おかげで改竄しやすかった」


「仕事が早い」


リヒトが尻上がりな口笛を吹く。
シオンは2人を交互に見上げるが、会話の内容はよく分からなかった。

諦めてベッドに腰かける。側へ来たリヒトが、ベッド横の引き出しから煙草を取り出す。


「まあ、これで俺たちが当たることは無いな」


トーナメントで4人が当たらないよう、手を回したということだろうか。

軽く咳き込んでしまう。
タバコの煙は苦手だ。

思い出したようにそちらを見たリヒトが、そうだ、と再び口を開いた。


「リアム、次はお前の番だろう」


爽やかな笑みが意味するのは、あの行為のことだろう。
リヒトは、誰よりも優しく、そして合理的な男だ。

シオンの背中に嫌な汗が流れた。


「丁度良い所だったようだし、なんなら席を外そうか?」


愉快そうな声に、リアムはこちらを一瞥し、短くため息をついた。

気分を害したのだろうか。不安になるシオンだが、そうではなかった。

リアムは、次いでふっと笑った。


「何が気に入らない?」














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