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〖52〗ゲーム
しおりを挟む「先攻なら負けなしなんじゃなかったのかい?」
「·····」
「どうやら、今回も俺の勝ちだ」
「今回"は"、っすね」
ターゲットの女性を決めては、どちらが相手の気を引くことが出来るかを競う。
同じ顔だからこそ出来る、暇つぶしのゲームだ。
「それにしても、可愛らしい"ご令嬢"だった」
モノクルの奥の瞳が嗤う。
バレンはおかしそうに首を振った。
「俺はヨユーでありっすね」
「性別はまだしも····子供じゃないか」
テイラーが呆れたような顔をする。二人はシオンの消えた道を眺め、どちらからともなく視線を見合せた。
「だが、妙に気にかかる"ご令嬢"だ」
「奇遇っすね」
線の細い体に女よりも滑らかな肌。
彼らの気を引いた理由は、彼がただ女装をしているからではなかった。
「なーんか、匂うんすよねぇ」
どうする?とテイラーを振り返ったバレンに、彼はあっさりと首を振る。
「焦る必要は無いさ」
ただ女装をするだけが目的ならば、瞳の色を変える必要は無い。
何かしらの理由で、彼は正体を隠す必要があったのだ。
「近いうち、またお会いすることになる」
賑やかな街に夕やけが顔を出す。
屋台の明かりが転々と灯り始めた頃、道から2人の姿は無くなっていた。
ホテルについたシオンは、恐る恐る部屋の扉を開けた。
「·····?」
鍵が空いている。確かに閉めていったはずなのに、何か勘違いしたのだろうか。
部屋の中は出ていった時と変わらない。
リヒトが戻ってきた形跡はなかった。
「ふぅ····」
間に合った。ほっと息をついた時、いくらか涼しくなった風が部屋をかけてゆく。
窓が開けっ放しだ。
おかしい。戸締りは、確かにしっかりして行ったのに。
「·····!!」
ソファから、男物の靴が覗く。
リヒトのものでは無い。
侵入者だ。
シオンは恐る恐る窓へ近寄った。
反対側へ回ると、そこには、見知った男がいた。
真っ赤な髪が柔らかくなびく。
切れ長の目元は閉じられ、シオンを見る時に顰められる眉の力は解かれていた。
冷たく威圧的な雰囲気はぬぐえないが、見れば見るほど、端麗な顔つきだ。
(まつ毛、長い·····)
切なさにも似た感情に戸惑う。
彼の力強い瞳に射抜かれるのが怖い。けれど、今はそれが見られなくて残念だなんて、本当におかしなことだった。
(もっと近くで、見てみたい·····)
ふと、薄い唇が動く。
顔を近づけた時、彼の瞼がぱっと開かれた。
「リ····────っ!」
力強い重力に、ぐらりと視界が歪む。
弾力のある物に背中と後頭部を打ち付けられる。
それがソファだと気づいた頃には、既に両手を固定されていた。
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