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〖50〗2人の騎士様
しおりを挟む磁石を使ったマジックだ。第2の故郷では、北方からやってきた商人たちが自慢げに紹介していた。
興味が失せると、息苦しさに耐えられなくなってきた。引き返そうとしたシオンは、ドン、と、硬いものにぶつかった。
目の前に、贅肉に覆われた大きな背中。
酒で赤らんだ顔が、シオンを振り返った。
「なんだぁ?」
「す、すみません」
不機嫌そうな男は、シオンを確認すると驚いたように目を見開く。
髭におおわれた口元はいやらしく歪んだ。
「なぁに、謝ることは無い」
丸太のような腕が腰に回される。
「体で詫びてもらおう」
「!」
「何してる、早くついてこい」
抵抗するように身をよじると、相手は苛立たしげに舌打ちをした。
「···っ放して·····」
「うるせえ!!黙って着いてこい!!」
腕が振り上げられる。
殴られる。
予測し、強くまぶたを閉じた時だった。
「ちょっとちょっと、おじさん!」
頭上から、剽軽な男の声がした。
強く引き寄せられていた身体が解放される。
「ううっ!」
シオンは目を見開いた。
男の腕をひねりあげたのは、見慣れない称繍の軍服を着た後ろ姿。
「紳士として失格っすね~」
ボルドーの髪を持つ若い男だ。彼が手を離すと、酔っ払いは無様に尻もちを着いた。
「うぅ·····くそ!」
変態オヤジはへっぴりごしで逃げ去ってゆく。
助かった。
シオンは恩人の背中へ手を伸ばした。
「あの──」
「バレン、勝手に行動するなと言っただろう」
こちらより先に、彼を呼ぶ者がいた。
「え·····」
人混みの中から姿を現したもう1人に、シオンは言葉を失った。
助けてくれたのは、バレンと呼ばれた男。甘いマスクに、目元のほくろがセクシーな青年だ。
新たに現れたもう1人は、長髪を1つに束ねた男。落ち着いた雰囲気の青年だが、顔立ちはバレンと瓜二つだった。
「人助けっすよ」
バレンがシオンを振り返る。
本当にそっくりだ。まるでドッペルゲンガーを見ているような奇妙さにかられる。
「お怪我はありませんか、レディー?」
彼は、シオンに向かって恭しく礼をしてみせた。
丁寧な言葉に反し、笑顔はとても人懐っこい。
女好きしそうな顔立ちに何度か瞬きしてから、シオンは差し出された手を握った。
「あ···ありがとうございます···」
艶やかなつり目が軽く見開かれる。
「·····?」
「礼には及ばないっすよ!レディーのような美しい方をお守り出来ることこそが俺の幸せなんですから」
歯の浮くようなセリフに、シオンは言葉を失う。
「え、えっと···」
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