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〖40〗笑顔の記憶
しおりを挟むシオンははにかんでみせた。
「面倒見が良いから」
ボタンの掛け違えを指摘してくれるなんて、4人の中で彼くらいだと思う。
エドワードがこんな失態を見つけたら、真っ先にからかう材料にしそうだ。
クレイが首を振る。
シオンはそうなんだと返して、木箱に腰かけた。
弟が3人と妹が2人、そして両親。皆死んだのは、もう15年前のことだった。
「部屋に戻れ」
ぶらぶらと足を宙で遊ばせていたシオンは、俯いたまま首を振った。
「もう少ししたら戻る」
だからもう少しと言って、シオンは黙りだ。
ガキのおもりは疲れる。
「エドワードに嫌われてるみたい」
ちんぷんかんぷんな言葉を聴きながら、クレイは再び空を見上げた。
「凄く酷いこと言うし、嫌がらせして喜んでるみたい。性格悪いんだ」
シオンはぽつぽつと愚痴をこぼし始める。
何だか始まってしまった。2度目のため息を着くが、少年の語尾は少し震えている。
「お前を評価してる奴もいる」
クレイが言う。
シオンはぴたりと口を閉ざした。
二人の間を、穏やかな夜風が吹き抜けてゆく。
「優しいね」
最後に、彼は情けなくはにかんだ。
やはり、この餓鬼といると、調子が狂う。
シオンが思うほど、エドワードは彼を嫌ってはいないはずだ。
そうでなければ、首筋へ印をつけるなんてことは無いだろう。
そっとまぶたを閉じる。
記憶の中に、新たな笑顔が蘇った。
───────────────
正午の船内に、甲高い叫び声が響き渡る。
書斎にいたリヒトとエドワードは作業の手を止めた。
ガッシャーン。
続いて、派手な落下音が上がった。
「何事だ?!」
ペンを投げ捨て、エドワードが部屋を出てゆく。残されたリヒトも軽くかぶりを振り、立ち上がった。
音がしたのは、船の最奥に位置する倉庫からだ。
「おい、なんの音だ?」
途中、音を聞き付けてやってきたリアムと合流する。
3人は早足に廊下を進んだ。
扉は半開きになっていた。
ノブを掴んだ手に力を入れかけたエドワードは、ピタリと動きを止めた。
「こ、こんなの、酷い·····」
漏れ聞こえてきた震え声はシオンのものだ。
「酷くないだろう···ほら、早くしろ」
「もうやだ····痛いっ····」
ため息混じりの低音が加わる。
エドワードは後ろの2人を振り返った。
「こんな体制じゃ、だめ·····っ」
「話す暇があったら自力で動いてみろ」
会話は謎のいかがわしさに拍車をかけた。
「こりゃやってんな」
エドワードは大袈裟に首をすくめた。
「クレイのやつ、エロジジイみてえな言葉責め」
「どけ」
リアムがエドワードを押しのけ、勢いよく扉を開ける。
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