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〖34〗攫われた奴隷

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─────────────



暗い会場に、いくつかの灯りが灯る。
広く冷たい空間だ。現れた気配に、待機していた使者は思わず飛び上がった。


「も、申し訳ありません」


男はその場に跪いき、沈黙に言葉を続ける。


「船に、侵入者が·····」


数メートル先に佇んでいたのは、2メートル近く身長のありそうな青年だ。
薄暗がりの中、両の眼だけが鈍く光るのは、闇に潜む肉食獣を思わせた。


「20代前半程の男で、赤髪という事以外は特徴を掴めておりません。恐らく『女神の泪』は彼に盗まれてしまいまして···」


報告をする使者の額に脂汗が浮く。それが刻まれた皺を伝い、やがて床へ吸い込まれてゆく。


『女神の泪』。


パンドラが所有する魔の宝石だ。

一度入り込んだ光は複雑なダイヤの屈折に閉じ込められ、永遠に外へ出ることが叶わない。
値段のない貴重な魔石。
それが、1人の侵入者によって、颯爽と姿を消してしまった。


「他に盗まれた物は?」


若く低い声が問う。


「他には·····」


返答が止まる。男は、ふと一人の少年を思い出した。


「貴方様に報告することのことではございませんが·····モンシュリットから連れてきた奴隷が赤髪に攫われました」

「·····」


奴隷の少年1人いなくなった所で、先にいる男は何一つ構わないだろう。
要らぬ報告を詫びるより先に、相手がこちらを振り返った。


「奴隷の特徴は?」


「·····?髪と、黒い瞳の少年です。歳は14と聞きました」


(なんだ·····?)


答えながら、男は気味の悪い違和感を覚えた。

暗がりの目がかすかに細められる。
それは、ここ数年間見てきた中で、初めて人間らしい彼の表情だった。



















まだ日が昇ってまもない頃、一隻の海賊船が島へ着港した。

島から上がる炎を発見したのだ。

運命的な再会を果たす4人に、感動のムードは微塵も感じられなかった。


「てかさ」


開口一番エドワードが放ったのは、安否確認では無い。
彼はリアムの背に隠れているシオンを指さした。


「何その下着1枚みたいな服装。男娼にでもなんのかよ」


お前の趣味?と、リアムを小突こうとした肘が、すいと避けられる。
他人をからかっていないと生きていけないような性悪なんだ。シオンは無言を貫いた。

船に戻ってから、リアムは貨物船での出来事を詳細に話した。

ヴィンセントが内密に奴隷を購入していたこと、そしてその奴隷商人はある組織の傘下の者だということ。


「恐らく、組織は"奴ら"と繋がりがある」


「奴ら?」


リヒトの問いかけに、リアムは不敵な笑みを覗かせた。
彼がシャツの中に手を突っ込む。傷だらけの手のひらが開かれると、そこには青に透ける黒宝石があった。

一見丸型だが、よく見ると表面にはいくつもの屈折がある。






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