32 / 217
〖31〗運試し
しおりを挟む内腿を、ぬるりとしたものが這う。
捲り上げられたスリーパーを見下ろす。
高い鼻先が腿を撫で、熱の篭った瞳がこちらを仰ぎ見た。
「さぁ、服を脱ぎたまえ」
ヴィンセントが自身のネクタイをゆるめる。シオンの手先は、震えながら服の裾を掴んだ。
言う通りにすれば、殺されることは無い。
あの4人に抱かれたように抱かれるだけだ。
そう思うのに、恐ろしくて、気持ちが悪い。
ヴィンセントの手が尻へ伸びる。
強くまぶたを閉じた時だった。
ミシリ。
どこからか、小さく軋む音がした。
刹那、耳を劈くような爆破音とともに天井が崩壊する。
破片と一緒に、頭上から得体の知れない塊が飛びだした。
「な、何事だ?!」
瓦礫と埃に噎せたヴィンセントは、次の瞬間、部屋の端まで吹き飛んだ。
「ぐっ·····!」
「!!リ·····──」
背の高い人物が姿を現す。声を上げかけたシオンは、言葉を失った。
こちらを見下ろした瞳は、燃え盛る炎のようだ。
「口閉じとけ」
言うが早いが、ひょいと身体を持ち上げられる。
シオンは慌てて口を閉じ、走り出したリアムにしがみついた。
後ろから、ヴィンセントの叫び声が聞こえてきた。
「ど、どうするの」
「黙ってろ」
直ぐに返ってきた言葉に素直に従う。
目の前から、武器を片手に5、6人の船員が姿を現す。
背後からは警備の男たちが駆けてくる。
廊下は一本道。挟み撃ちされてしまったかと思いきや、次には視界が歪んでいた。
廊下の手すりから躊躇うことなく下へ飛び下りたのだ。
大きな振動に驚く暇はない。
口を閉じていなければ、下を噛んでいるところだった。
「下に逃げたぞ!!!」
「追え!!」
頭上から男達の声が響く。
生きていることを確認し、シオンは唾を飲み込んだ。
今、この命はリアムに託すほかない。
倉庫を抜け、扉の目の前で剣を構えていた巨漢たちは次々とリアムの剣に切り捌かれてゆく。
彼の身のこなしに着いてゆけるものは、誰一人としていない。
ひときわ頑丈な両扉を抜けたら、目の前に青い空がひろがった。
今日は波風が強い外だ。
「ふざけるなぁぁぁ!!!」
絶叫とともに、銃弾が降り注いだ。
「僕のシオンを帰せぇぇ!!!」
デッキの上から、目を血走らせたヴィンセントが身を乗り出している。
もはや狂気だ。
萎縮したシオンの耳元で、ふっ、と、吐息のような笑い声が聞こえた。
「·····?」
シオンは呆然とリアムを見上げた。
真っ赤な髪が潮風になびく。
切れ長の目元は涼しげで、しかし瞳には強い意志が込められている。
彼は笑っていた。
うっかり宝石の方がついて行ってしまいそうな程、美しい男だ。
───幻の財宝。
リアムが求める宝は、どんなに素晴らしい物なのだろう。
状況を忘れ、そんなことが脳内に浮かぶ。
「運試しだな」
リアムの声は、走っていることを感じさせぬほど落ち着いていた。
首を傾げたシオンは、ふと前に向き直る。
「·····!!」
数十メートル先に、どこまでも続く海が広がっていた。
1
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる