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〖31〗運試し

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内腿を、ぬるりとしたものが這う。

捲り上げられたスリーパーを見下ろす。
高い鼻先が腿を撫で、熱の篭った瞳がこちらを仰ぎ見た。


「さぁ、服を脱ぎたまえ」


ヴィンセントが自身のネクタイをゆるめる。シオンの手先は、震えながら服の裾を掴んだ。

言う通りにすれば、殺されることは無い。

あの4人に抱かれたように抱かれるだけだ。
そう思うのに、恐ろしくて、気持ちが悪い。

ヴィンセントの手が尻へ伸びる。

強くまぶたを閉じた時だった。

ミシリ。
どこからか、小さく軋む音がした。

刹那、耳を劈くような爆破音とともに天井が崩壊する。
破片と一緒に、頭上から得体の知れない塊が飛びだした。


「な、何事だ?!」


瓦礫と埃に噎せたヴィンセントは、次の瞬間、部屋の端まで吹き飛んだ。


「ぐっ·····!」


「!!リ·····──」


背の高い人物が姿を現す。声を上げかけたシオンは、言葉を失った。

こちらを見下ろした瞳は、燃え盛る炎のようだ。


「口閉じとけ」


言うが早いが、ひょいと身体を持ち上げられる。

シオンは慌てて口を閉じ、走り出したリアムにしがみついた。
後ろから、ヴィンセントの叫び声が聞こえてきた。


「ど、どうするの」

「黙ってろ」


直ぐに返ってきた言葉に素直に従う。

目の前から、武器を片手に5、6人の船員が姿を現す。

背後からは警備の男たちが駆けてくる。

廊下は一本道。挟み撃ちされてしまったかと思いきや、次には視界が歪んでいた。

廊下の手すりから躊躇うことなく下へ飛び下りたのだ。

大きな振動に驚く暇はない。
口を閉じていなければ、下を噛んでいるところだった。


「下に逃げたぞ!!!」

「追え!!」


頭上から男達の声が響く。
生きていることを確認し、シオンは唾を飲み込んだ。

今、この命はリアムに託すほかない。
倉庫を抜け、扉の目の前で剣を構えていた巨漢たちは次々とリアムの剣に切り捌かれてゆく。

彼の身のこなしに着いてゆけるものは、誰一人としていない。
ひときわ頑丈な両扉を抜けたら、目の前に青い空がひろがった。
今日は波風が強い外だ。


「ふざけるなぁぁぁ!!!」


絶叫とともに、銃弾が降り注いだ。


「僕のシオンを帰せぇぇ!!!」


デッキの上から、目を血走らせたヴィンセントが身を乗り出している。

もはや狂気だ。
萎縮したシオンの耳元で、ふっ、と、吐息のような笑い声が聞こえた。


「·····?」


シオンは呆然とリアムを見上げた。

真っ赤な髪が潮風になびく。
切れ長の目元は涼しげで、しかし瞳には強い意志が込められている。
彼は笑っていた。

うっかり宝石の方がついて行ってしまいそうな程、美しい男だ。

───幻の財宝。
リアムが求める宝は、どんなに素晴らしい物なのだろう。

状況を忘れ、そんなことが脳内に浮かぶ。


「運試しだな」


リアムの声は、走っていることを感じさせぬほど落ち着いていた。

首を傾げたシオンは、ふと前に向き直る。


「·····!!」


数十メートル先に、どこまでも続く海が広がっていた。








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