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〖29〗ヴィンセント
しおりを挟む(どうしてあいつが?)
姿を現したのは、小太りな男2人と、世界有数の資産家、ヨハン・ヴィンセント・カーネギー。
齢二十八という若さで様々な起業に成功し、チャリティーや貧しい村の支援活動を行う慈善家でもある。
人身売買は、富裕層の野蛮な娯楽とされている。
クリーンなイメージを持つヴィンセントが奴隷商に手を出していることが知られれば、大きなイメージダウンになるだろう。
ここには似つかわしくない男だ。
「今までの売買で最高額ですよ。確かに上玉ではありますが···彼のどこが気に入ったんですか?」
老人の言葉に、ヴィンセントは軽い笑い声を上げただけだった。
「金は充分過ぎるほどに払ってやるから、この記録は残すなよ」
「なんと慈悲深い方なんだ。当分は徴収分の心配もせずに暮らせます」
(徴収·····)
奴隷商は大きな組織の端くれ。
ヴィンセントと組織は、支援関係にあるということだろうか。
リアムは下唇を舐めた。
飛び込んだ穴で、面白い情報を探れそうだ。
男達と別れたヴィンセントが一室へ入ってゆく。
リアムは非常階段から通気口へと侵入した。
幸いそこまで狭い通路ではない。
体感力に任せ、記憶した部屋の天井位置へ到達する。
「待たせてしまってすまないね···」
丁度、くぐもった男の声が聞こえてきた。
通気口の格子から部屋を覗き込むと、そこにはヴィンセントと、小柄な少年がいた。
シオンだ。
予想は見事的中した。
先程の話を聞く限り、ヴィンセントはシオンに大金を積んだらしい。
一体あの餓鬼の何が良かったのだろうか。
理解しがたい。
「君の名前を教えてくれるかい?」
ヴィンセントの問いかけに答えながら、彼はにこりと笑う。
見たところ外傷もなければ元気そうだ。
現在貨物船は海のど真ん中。
暫くはここから様子を見つつ、シオンの奪還はどこかの港へ着いてからが妥当だろう。
一次待機の体制に入ったリアムは、しかし眉を顰めた。
ヴィンセントの動きがおかしい。
彼は何やら囁きかけ、シオンをベットへ誘導する。
両の手は、間違いなく、少年の身体をまさぐりだした。
「·····」
ヴィンセントの荒い呼吸が聞こえる。何かをひっきりなしに囁く内容が、段々とこちらまで聞こえてきた。
「シオンは体温が高いね·····?可愛いよ····素晴らしい·····」
途切れらることなく、肌触りや昂りを言葉にして吐き出すヴィンセント。
シオンは困惑したように視線をさまよわせ、内腿を撫でられると、僅かに身体を震わせた。
「あぁ、シオン·····!」
「ひ···っ」
小さな身体は、安易にベッドへ押し倒された。
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