海賊団に攫われた貧民〖イラストあり〗

亜依流.@.@

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〖28〗侵入者

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「失礼致しま···」


ゴン、と、鈍い音がした。


「·····?」


シオンはベットから身を乗り出し、扉の方を覗く。

扉の前に、男が倒れ込んでいる。
顔半分は鮮血に覆われていた。


「この塵屑が·····」


血の滴る金の骨董品を片手に、ヴィンセントが呟いた。


「この僕の崇高な時間を邪魔するとは、なんと愚かな·····」


倒れ込んだ男を何度も踵で蹴り上げ、頭を踏み付けるヴィンセント。
くぐもったうめき声が聞こえる。
シオンはその場から動けなくなった。

目を逸らしたくても逸らせない。

暫く、痛々しい音が続いた。


「どう罰せば良い?いや、罰し切れるのか···?そうだ、こうか?もっとか?あと何回···」


ブツブツ言いながら、ヴィンセントが棚の上にあった剣を抜く。


「どうか、お許しを·····」


男はヒューヒューと秋風のような息を漏らし、掠れ声で告げた。


「せ、船長が、お呼びです·····」

「そうならそうと早く言え!」


振り下ろされた剣が首元に深く突き刺さる。

血だらけの男はとうとう動かなくなった。


「片付けておけ」


ヨハンは見張りの男に死体の後片付けを命じ、シオンを振り返った。


「残念ながら用事が出来てしまった」


甘さを含んだ微笑みが、大人しく待っていてくれとつげる。

彼が扉の向こうに消える。
鍵の閉められる音と共に、静寂が訪れた。

シオンは決意した。
どうにかして逃げなければと。






























早朝五時。

1人の侵入者が、積まれた木箱の上、デッキをうかがっていた。

赤い瞳が閉じられる。
深夜から朝方にかけて鍵のかかった部屋を調査したが、シオンはいなかった。

余計な仕事を増やす餓鬼だ。
舌打ちを落とし、短機関銃に火薬が詰まっているのを確認する。
証拠を残さないため、1度盗んだ鍵まで丁寧に元の位置に戻して周り、鍵の付いていない部屋もダメもとで確認したが、やはりシオンはどこにもいない。

となれば、残るはプライベートルームのみ。

即ち、船客や高位の者たちの部屋だ。

警備が多い上に、ただの奴隷が通されるような部屋ではない。
シオンがいる確率は低いだろうと後回しにしていた。


「面倒臭ぇ·····」


今日何度目かの呟きだった。

8時頃、仕事を交代する船員たちがわらわらと動き始める。
リアムは彼らの目を盗み、船内へ通じる入口の前へ降り立った。

内側から人の気配が近づいてくる。
物陰へ隠れ、扉が閉まる直前、その中へ滑り込む。
薄暗い廊下だ。
真っ直ぐな通路の向こうに小窓があった。

どこまでも真っ青な海が見える。
本当に面倒なことになった。

込み上げるいら立ちを溜息に変え、先を進む。

保管庫、空調室を通り過ぎる。非常階段を上がると、地下とは違う風貌の廊下に出た。

客室階にたどり着く。
鍵穴は複雑式。解錠は簡易ではなさそうだ。


「·····──では、その値で手を打とう」


廊下の向こうから男の声が聞こえてきた。

扉の裏に身を隠す。
流暢なイギリス英語だ。
突き当りから、見覚えのある男が顔を出した。




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