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〖27〗紳士
しおりを挟む「私とした事が···無粋な真似を」
再び、大きな手が伸びてきた。
シオンは驚いて、固くまぶたを閉じる。
果たして手を執られた。少し湿った温もりを感じて、甲にキスされたのだと気がついた。
「ああ、なんと初心な反応···白く柔らかな肌に、華奢な身体···そうか君が···」
「ヴィ、ヴィンセント様·····?」
ポカンとする中年の男を無視して、紳士は酔ったように訳の分からない言葉を吐露している。
やがて彼はハッとしたように目を見開く。
固唾を飲んで見守るシオンと、シオンを担いだままの男。
ヴィンセントは優雅な微笑をうかべた。
「君が私の天使だったのか」
シオンの耳へ、微かな波の音が聞こえてきた。
「ヨハン・ヴィンセント=カーネギー。君のご主人様の名前だよ」
牢を出たあと、シオンはゴシック調の広い一室へ連れてこられた。
ここへ来るまでの間に、彼の使用人に爪を研がれたり風呂へ入れられたりと、様々な施術を受けた。
丈の短いスリーパーは子供用だ。全く疑うことなく14だと思われているらしい。
少し、否かなり不満だった。
「ヨハンと呼ぶように」
彼は女好きしそうな顔でにこりと微笑んだ。
「さあ」
「·····えっと·····」
シオンは、促されるまま彼の名を口にした。
「ヨハン様·····」
「ああ!」
ヴィンセントが叫び声を上げる。
驚くシオンを無視して、相手は肩口で荒く息を吸いながら、両手で顔を覆った。
「あぁ、素晴らしい、完璧だ···素晴らしい···」
指から覗いた口元には隠しきれぬ笑みが浮かんでいる。
「·····?」
何かの発作だろうか。
垣間見えた狂気的な表情に戸惑っていると、
「こっちへおいで」
彼は言いながらこちらの背に手を回してきた。
シオンはヴィンセントに促されるまま、ベットへ腰掛けた。
「·····?」
ヴィンセントがシオンの前に屈む。
優しげな目元は、恍惚と歪んだ。
不意に足首を掴まれる。引っ込めようとしたら「そのまま」となだめられ、大きな掌が、少しずつ腿まで滑ってきた。
「·····っ」
舐めるような触り方だ。
荒い呼吸を聞きながら、シオンは両手を握りしめる。
目の前の紳士は、所謂変態だ。
初めて向けられる熱視線にはどうすればよいのかわからなかった。
4人の男に抱かれたが、それはあくまで目的を果たすための手段。
今まで、自分自身を性的対象として見る者はいなかった。
嫌悪感を覚え、片手でそっと口元を塞ぐ。
シオンと対照的に、ヴィンセントの昂りは最高潮だった。
中性的な容姿に、しっとりと吸い付くような肌。
脳髄を撃ち抜かれる程強い高揚感だった。
この少年こそ、捜し求めていた天使そのものだ。そう確信した時──突如、扉がノックされた。
「ヴィンセント様」
扉の向こうから、男の声が聞こえる。
ヴィンセントの手がピタリと止まった。
立ち上がった彼が無言で扉へ向かってゆく。
シオンは胸をなでおろした。
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