27 / 217
〖26〗牢屋
しおりを挟む─────────────
初めに、ジメジメとした不快感を覚えた。
「んん·····」
頭を打ったのか、後頭部に鈍い痛みがある。
ぼんやりと目を開け、しばらくすると、薄暗い向こうに鉄格子が見えた。
そこはかび臭い牢の中だった。
周りを見回したら、自分と同じく手足を拘束された男達が座り込んでいる。
地面が鈍く揺れる。
シオンは吐き気を飲み込んだ。
孤児と間違えられ、奴隷商人に攫われたらしい。
恐らく、商貨物船の中だ。
「···それで、珍しい目の色をしてる商品とは?」
突如、天井からガシャンと大きな音が響いた。
牢の向こうに光が差し込んだ。
外に繋がる扉が開いたのだ。
上階に繋がる階段から、二人の男が姿を現した。
1人はシオンを攫ったガタイの良い男。
もう1人は、ここには似つかわしくない、20代後半程の紳士だった。
クリーム色の髪を後ろへ撫でつけ、小綺麗な服に身を包んだ男だ。
整った顔立ちだが、知的な碧眼はどこか冷たい。
「汚らわしい·····」
彼は憎々しげに呟いた。
「この僕に足を運ばせておいて、またスラムのゴミでも見せてみろ。お前の血肉を豚共の餌にしてやる」
おぞましい台詞を吐き捨てた男に、大柄な男は慌ててこちらへ向かってきた。
「ったく···この靴はもう使えないな···」
新品同様の革靴なのに、一体何を言っているのだろう。
金持ちの考えることは分からない。シオンが首を傾げたとき、牢の鍵が開く音がした。
天井からは忙しない足音、部屋の端にはそれぞれ見張りがいる。
逃げ出すのは無理そうだ。
紳士が牢の中を見渡すのを眺めていたら、引き寄せられるような視線が、不意にこちらへ投げられた。
視線が絡み合う。
逸らすより先に、突如、強い力に腕を引っ張られた。
「·····っ!」
シオンは大きな男にかつがれ、牢の外へと引きずられた。
「瞳の色が黒、身長155、体重42、推定年齢は14の少年です」
違う、16だ。訂正したいのを耐え、首根っこを掴まれたまま大人しくしておく。
「·····。」
目の前にいた背の高い紳士は、こちらを凝視したまま微動だにしない。
「ええと···いかがでしょうか、ヴィンセント様」
中年の男が、相手の顔色を窺うように背を丸める。
「·····この少年は、どこから?」
紳士がうわごとのように問う。
さっきの神経質な感じとは、打って変わって穏やかな声だ。
碧眼はその間もシオンから視線を離さなかった。
「つい先程のモンシュタット島ですが···産まれは、おそらく南の方かと···」
曖昧な返答を気にするふうもなく、ヴィンセントと呼ばれた男の手が、こちらへ伸びてくる。
大きな手のひらが、裸の腿へ触れる。
「!や·····」
思わず振り払うと、カシャン、と鋭い鎖の音が鳴り響いた。
「お前、誰に向かって·····!!」
「構うな」
怒鳴りかけた男の声はヴィンセントに遮られた。
「しかしヴィンセント様·····」
シオンは恐る恐る相手を見上げる。
0
お気に入りに追加
964
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる