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〖20〗性格悪い
しおりを挟む彼の腕が無造作伸びる。掴んだのは、骨と皮のような手首だ。
「あっ」
持ち主は、まだ10にも満たないほどの少年。
「クレ·····」
「店主に目をつけられている」
クレイは少年を見下ろしたまま、やめておけと忠告する。
シオンは、少年が盗みを働こうとしていたことを知った。
「う、うるさいな」
少年が慌てたように言い返し、逃れようと身をよじる。
「離せ!」
「何故薬を?」
クレイは彼を捕まえたまま問う。
少年が手を伸ばしかけたのは、薬の詰められた瓶。
スラム街の子供なら、金目のものか食べ物を盗もうとするのが普通だ。
暫くして、少年はボソリと呟いた。
「弟が、病気なんだ·····」
医者を呼ぶ金もないと言う少年。
クレイは彼の前に小さな布袋を差し出した。
「これで医者を呼んで、薬を飲ませてやれ」
「·····?」
袋の中を覗き込んで、少年は驚いたようにクレイを見上げる。
「早く行け」
少年は、逃げるように走り去っていった。
シオンは、少年が消え去った道とクレイとを、交互に見る。
理解し難い光景だった。
「クレイ·····」
「偽善者」
シオンの声を遮り、掠れた声が言う。
後ろからやってきたエドワードが、フンと鼻で笑った。
「義賊気取りかよ」
「気紛れだ」
クレイは表情を変えず返答する。
エドワードは嫌な感じのする笑みを貼り付けたままだ。
何がそんなに面白いのだろう。
シオンは眉をひそめた。
「性格悪い」
「あ?」
紫の瞳がシオンを見下ろし、すっと細められる。
「···誰に向かって口聞いてんだ?」
「あっ!」
軽く膝を蹴りあげられ、シオンは地面に倒れ込んだ。
「次抱いてやる時、覚えとけよ」
冷ややかな声が告げる。
「酷くされたくなきゃ、せいぜい俺に媚び諂うことだな」
シオンは拳を握りしめた。
出会った時から勘づいてはいたが、エドワードは相当根性が歪んでいる。
顔についた土をぬぐい、立ちあがる。
クレイは、少年がいなくなった道を眺めていた。
どこか寂しげな瞳だ。名前を呼ぶのを躊躇い、彼の手をそっと掴んだ。
「あの子の弟、良くなるといいね」
クレイに向かってはにかむ。
彼はおもむろにこちらを振り返り、繋がれた手を見下ろす。
「勝手なことをするな」
腕は簡単に振り払われてしまった。
「ごめん·····」
ただ、元気付けたかっただけなのに。
余計なお世話だったようだ。
シオンは行き場のなくなった手を握りしめた。
商店街を抜けると、開けた場所に出た。
道の端で、汚れた布1枚を着た男女が、手首を鎖に繋がれ行進している。
先頭には派手な装飾を身につけてた男が二人。
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