上 下
19 / 217

〖18〗稽古

しおりを挟む




───────────



受け取った短剣は思いのほか重い。

シオンは何度か瞬きを繰り返した。
閃いて、それを渡してきた男を見上げる。


「料理用のナイフ?」


「ぶっ」


後ろから吹き出すような笑い声が聞こえた。
振り返ると、壁によりかかったエドワードが、片手で口元を押さえている。


「あっ···ははは、あ~苦しい、勘弁してよほんと」


彼はわざとらしく苦しそうな呼吸を繰り返した。
馬鹿にされるような言動をしたつもりは無い。


「·····違う」


ぶすくれたシオンに、クレイが首を振る。
外れなら、これはなんの為のナイフだろうか。


「付いてこい」


クレイがシオンを手招きした。


「お料理教室じゃないからね」


野次を飛ばすエドワードを無視して、クレイに続き部屋を出る。

頬をふくらませているシオンを目の端で眺め、クレイは先を進んだ。






























連れてこられたのは、殺風景な一室だった。


「まずは、最低限の護身術を身につけてもらう」


クレイが無感情な声で告げる。

握ったままの短剣を見下ろしたら、視線の先を、大きな手が掴む。


「比較的身軽なスタイルの短剣だ。軽いから攻撃力は少ないが、咄嗟の時に扱いやすい」


握る形を矯正される。


「その持ち方を保て」

「これで戦うの?」


クレイは、また「いいや」と首を振った。 
戦闘経験のない非力な少年が相手にできるような相手はいない。


「あくまで護身用だ。万一の時、お前は自分の身を守ることを最優先しろ」


死なれてしまっては元も子もないと言うクレイに、シオンはこくりと頷いた。

腰に腕を回される。


「大人しくしろ」


後ずさったシオンに命じる。
言う通り立ち止まったシオンの腰は、両手で輪を作れそうなほど細かった。

ホルスターのサイズを調整しなければいけない。
クレイは考えながら手を離した。


「えっと·····」


シオンがモジモジと指の先を動かす。

心做しか、大きな瞳が潤っている。


「どうした」

 
悪いことをした訳でもないのに、一瞬変な罪悪感を感じる。


「自分で脱ぐから」

「は?」


シオンはベルトを外し、おずおずとズボンをおろし始めるではないか。

クレイは理解が追いつかず、首を傾げた。


「なぜ脱ぐ」

「·····?」



彼はとうとうパンツへと手を伸ばす。
クレイはようやく、彼が勘違いしていることに気がついた。

服を脱がせる理由を、性行為と捉えたらしい。


「やめろ」


クレイは彼の手首を掴んだ。


「あっ」


パンツをずり下げ、片足を上げていたシオンがバランスを崩す。
頭からクレイへ突進し、2人1緒に床へ倒れこんでしまう。
視界が反転した時、ガチャリと扉の開く音がした。


「稽古の進み具合は·····」


どうだ、と、顔を出したのはリヒト。









しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...