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〖3〗ハーウェン家の噂

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「あの子とはできるだけ関わっちゃダメって、言っているでしょう」


ジルの家には根拠もない噂があった。
父親が、窃盗品や禁止物、人身売買を行っている闇商売人であるという噂だ。

裕福でありながら貧しい町に越してきた理由は、孤児を攫って売り飛ばすためだという住人もいる。


「そんなの嘘に決まってる」


シオンは自室へ逃げ込んだ。
悔しい気持ちでいっぱいになった。
ジルは自分の大切で、かけがえのない存在だ。

早くジルに会いたい。
その日は強く瞼を閉じて、無理矢理眠りについた。


























バスケットを手に、待ちに待った配達へ向かう。

今日も最後はハーウェン家だった。

町の人達の噂なんでどうでも良い。
ただ、それがジルの耳に届いていないかが、心配で気が気でなかった。

大きなバスケットを抱え、坂をのぼる。


「·····?」


ガタイの良い男達が数人、ジルの家から姿を現した。


「おや?」


ジルと同じ瞳の男性がこちらに視線を向ける。


「こ、こんにちは·····」


何だか嫌な雰囲気だ。
無意識のまま、後ずさった時だった。


「シオン!」


名前を呼ばれ、シオンはハッとした。

門から顔を出したジルが、シオンの前まで駆けてくる 。


「お前の友達かい?」

「はい」


彼らの姿はジルに隠れて見えなくなった。

男たちの気配が遠のいてゆく。
シオンは黙ったままのジルを見上げた。


「あの、ジル·····」

「·····パン、持ってきてくれたんだな·····ありがとう」


彼の表情に、シオンは酷く戸惑った。

影のある視線は、すぐにそらされた。


パンを受け取ったジルが、いつものように屋敷へ戻ってゆく。
ただいつもと違うのは、少し待ってて、という耳打ちがないこと。

それからジルが屋敷から出てくることは無かった。

シオンはやがて来た道を戻った。

次の週の配達でハーウェンの名前は無かった。
次の配達日も、そのまた次も、ハーウェン家を抜きに、パンの配達は続いた。


季節は冬になっていた。

雪のしんしんと降る真夜中、そして悲劇は起こった。





ドンドンドン、ドンドンドンドン。
激しいノックの音が響く。

続いて、父親の叫び声と、荒々しい他者の足音。
シオンは咄嗟にベッドの下へ潜り込んだ。

甲高い悲鳴が聞こえた。

目にしたのは、扉の前で首を跳ねられる母の姿だった。


「うわっ、この女、死体のくせにマントを引っ張りやがった!」


母を刺し殺した男が、横たわった胴体を狂ったように蹴りあげる。


「くそ、気味わりぃ」


シオンの目の前で、嘘見たな光景が繰り広げられているる。母を殺した男は大きな舌打ちを落とし、マントを脱ぎ捨てた。


「この家は?」


もう1人が低く問う。


「殺した男と女だけだ」


「外れか·····行くぞ」


かろうじて見えたのは、床に舞い落ちたマントに刻まれた、複雑な紋章。

足音が遠のき、扉が勢いよく閉まる。
シオンはただ震えていた。

冬なのに、家の中がやけに熱い。

動くことも出来ず、ベッドの下から窓の向こうを見上げた。
夜の町は炎の色に染まっていた。

再び、足音がした。

涙が止まらなかった。

さっきの男達が、自分を殺しに戻って来たのだ。
ヒックヒックと大きくなる吃逆を止めることは出来なかった。

シオンはただ泣きわめいた。


「シオン、シオン!!」


聞こえてきたのは、少し高い少年の声だった。












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