6 / 7
5.ふたりとの出会い
しおりを挟むこの地域のスラムに水は通らない。
だから貧しくて一畳の家も構えられない賤民が追いやられては、順番に死んでゆく。
ラヤは、その日だけを生きる孤児賤民だった。
齢は8。
父は物心ついた時にはおらず、娼婦だった母は病に伏し亡くなった。
しかし寂しくはない。
貧乏でも構わなかった。
今はただ、ここで生き延びながら兄を待っている。
2ヶ月前、5つ年上の兄・シンエトは、隣地域の憲兵へ志願に行ったきりだ。
雇い主の領主は羽振りが良く、報酬は弾むという。一生苦労しないだけの生活費を持って帰ってくると言っていた。
建物の隙間で何かが光った。
日の出だ。
(急がないと)
ラヤは頭に乗せていた木のバケツを抱え込み、まだ眠っている街並みを駈けた。
最近、ここらの貧民街に盗賊団が蔓延っているのだ。
奴隷としても使い物にならない民が残された地域を、領主が管理してくれるはずもない。
ここは荒くれ者が幅をきかせるにはうってつけの場所だった。
彼らはまず、金目になりそうなものを見つけては奪っていった。
力で敵うはずもない。
孤児に老いぼれ、栄養のない食事ばかりで貧相な体の若者、体の不自由な者達、誰もが彼らを恐れ抵抗しない。
見つかったら、せっせこ運んできた水を奪われてしまうだろう。
弱肉強食の世界。
弱者が生き残るためには、彼らの目につかないようにすることが一番だ。
ラヤは力の入らない脚で地面を蹴った。
逃げ込むようにして小屋へ入ろうとした時、ふと、道の先に何かがころがっているのを見つけた。
影はふたつ。
1つは枯葉みたいな赤茶。もう1つは艶のある白金色。
どちらもその場をじっと動かない。初め、干からびた野良動物かと思ったが、近づくうちに正体が掴めた。
「!!」
少年だ。布切れ同然の服装で、二人の少年が道端に倒れている。
右往左往したのち、ラヤは一度テントへ向かい、それからまた外に飛び出した。
茶髪の方をバルキス、金髪の方をアルバという。
ラヤより2つ上のバルキスは勝気な性格だった。
何故か命を狙われていたアルバを担いで荷馬車に乗り込み、この街までたどり着いたという。
変な武闘術を知っている孤児難民だ。
アルバは不思議な少年だった。
「俺は王様になるのが夢なんだ」
バルキスは楽しげに語っていた。
「金があったら先ず貧しい子供に食いもんをやる!誰も逆らえない偉い王様になって、悪い奴らを処刑してやる」
「そんなこと出来るわけない」
恐ろしくも希望に溢れた言葉を、アルバは一刀両断した。
「そしたら、この世界に貧富も独裁もないんだ」
彼は子供離れした思想を持っていた。
せっかく命からがら手に入れた食材も面倒そうに食べたり、時折こっちをゴミを見るような目で見たりした。
幼いながらに、彼は何かがおかしいと思ったりもした。
しかしそれも長くは続かなかった。
「バルキスは愚か者だ」
ある日、子供にしては古臭い罵倒をして、アルバは部屋の端にしゃがみこんだ。
日中王様になると叫んでいたバルキスを思い出しているのだろう。ラヤは彼の隣に座って、グースカと眠るバルキスを眺めた。
「どうしてそう思う?」
「不可能だからだ。誰しも、偉大な脅威には打ち勝てない、ぜったいに」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?


転生先がBLの世界とか…俺、聞いてないんですけどぉ〜?
彩ノ華
BL
何も知らないままBLの世界へと転生させられた主人公…。
彼の言動によって知らないうちに皆の好感度を爆上げしていってしまう…。
主人公総受けの話です!((ちなみに無自覚…

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!

くろちゃん!
美国
BL
人型獣耳たちのお話
俺は生まれつき黒ミミ黒しっぽで生まれてきた。俺は拾われた子供らしく、母も父も兄弟も血の繋がったものはいなかった。物心ついた時にはこの虎の群れの中で生活していた。
主人公はいろいろな獣に愛されまくります。
転生先は、暴君のせいで滅亡(予定)の帝国だった。
亜依流.@.@
BL
家紋死滅を逃れるため、失踪した兄になりすましてアカデミーへ入団するアリステア。小説では「血の皇帝」と称されていた皇太子キリアンと出会い、未来を変えようと決意する。
アリステアは無事正体を隠し通し、前世からの願いを叶えられるのか?

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる