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5.ふたりとの出会い
しおりを挟むこの地域のスラムに水は通らない。
だから貧しくて一畳の家も構えられない賤民が追いやられては、順番に死んでゆく。
ラヤは、その日だけを生きる孤児賤民だった。
齢は8。
父は物心ついた時にはおらず、娼婦だった母は病に伏し亡くなった。
しかし寂しくはない。
貧乏でも構わなかった。
今はただ、ここで生き延びながら兄を待っている。
2ヶ月前、5つ年上の兄・シンエトは、隣地域の憲兵へ志願に行ったきりだ。
雇い主の領主は羽振りが良く、報酬は弾むという。一生苦労しないだけの生活費を持って帰ってくると言っていた。
建物の隙間で何かが光った。
日の出だ。
(急がないと)
ラヤは頭に乗せていた木のバケツを抱え込み、まだ眠っている街並みを駈けた。
最近、ここらの貧民街に盗賊団が蔓延っているのだ。
奴隷としても使い物にならない民が残された地域を、領主が管理してくれるはずもない。
ここは荒くれ者が幅をきかせるにはうってつけの場所だった。
彼らはまず、金目になりそうなものを見つけては奪っていった。
力で敵うはずもない。
孤児に老いぼれ、栄養のない食事ばかりで貧相な体の若者、体の不自由な者達、誰もが彼らを恐れ抵抗しない。
見つかったら、せっせこ運んできた水を奪われてしまうだろう。
弱肉強食の世界。
弱者が生き残るためには、彼らの目につかないようにすることが一番だ。
ラヤは力の入らない脚で地面を蹴った。
逃げ込むようにして小屋へ入ろうとした時、ふと、道の先に何かがころがっているのを見つけた。
影はふたつ。
1つは枯葉みたいな赤茶。もう1つは艶のある白金色。
どちらもその場をじっと動かない。初め、干からびた野良動物かと思ったが、近づくうちに正体が掴めた。
「!!」
少年だ。布切れ同然の服装で、二人の少年が道端に倒れている。
右往左往したのち、ラヤは一度テントへ向かい、それからまた外に飛び出した。
茶髪の方をバルキス、金髪の方をアルバという。
ラヤより2つ上のバルキスは勝気な性格だった。
何故か命を狙われていたアルバを担いで荷馬車に乗り込み、この街までたどり着いたという。
変な武闘術を知っている孤児難民だ。
アルバは不思議な少年だった。
「俺は王様になるのが夢なんだ」
バルキスは楽しげに語っていた。
「金があったら先ず貧しい子供に食いもんをやる!誰も逆らえない偉い王様になって、悪い奴らを処刑してやる」
「そんなこと出来るわけない」
恐ろしくも希望に溢れた言葉を、アルバは一刀両断した。
「そしたら、この世界に貧富も独裁もないんだ」
彼は子供離れした思想を持っていた。
せっかく命からがら手に入れた食材も面倒そうに食べたり、時折こっちをゴミを見るような目で見たりした。
幼いながらに、彼は何かがおかしいと思ったりもした。
しかしそれも長くは続かなかった。
「バルキスは愚か者だ」
ある日、子供にしては古臭い罵倒をして、アルバは部屋の端にしゃがみこんだ。
日中王様になると叫んでいたバルキスを思い出しているのだろう。ラヤは彼の隣に座って、グースカと眠るバルキスを眺めた。
「どうしてそう思う?」
「不可能だからだ。誰しも、偉大な脅威には打ち勝てない、ぜったいに」
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