上 下
1 / 7

1.砂漠の国

しおりを挟む












かつて此の砂漠地帯に、森を創った神がいた。

砂漠は宇宙だ。
終わりなくどこまでも続く砂の世界に、四つの惑星が出来た。
森は生命を宿し、知性を持つ人間が国を作る。

赤い神獣加護を受けた、東の小国アルカディア。
碧の加護を受ける西のイェラカーン。北は白い神獣の加護を受けるユリウス、南には金の神獣加護を受けるマラフィ。

王族、貴族、戦士、商人、農民、賤民に奴隷。
砂漠に囲まれたゲージの中で、歯車は順調に回っている。

長きに渡る身分制度と、終わりのない砂の大地。
弱肉強食の世界だ。弱き者は迫害され、強き者は生き残る。しかし身分にこだわらず、或る者達はそれぞれに同じ希望を目指していた。

それは、この地の最果てにある。
ある者は富を望み、ある者は平和を望む。幸福を夢見る者もいれば、権力を欲し、また失った物を取り戻す為に奮起する者もいる。

この地には国が生まれるずっと昔から、暗黙に語り継がれてきた伝説がある。

彼らはそれをラティアと呼んだ。












  羽根の硬い野鳥が、高く暗い空を飛び越えてゆく。

昼間の風は嘘みたいに鎮まった。
やせ細った民達は衰弱するような眠りにつく。やがて砂漠さえ寝静まった、深夜2時頃。
アルカディアの最北部・ナタール地に立地する屋敷で、荒々しい警報が鳴り響いた。


「───侵入者だ!」


寝覚めに水をかけられたような兵士達が足をもつれさせながら地下の階段を駆け上がる。
指揮官の指示通りに動く様は危うい。長年の平和のせいで、実践に出たことの無い雇われ兵ばかりなのだ。


「きゃー!」


厨房の方で女の叫び声がした。
窓から数人の影が飛び出してゆく。兵士達が追うが、時はすでに遅い。厨房の銀食器はほとんど詰め込まれ、持ち去られた。


「こ·····これは·····」

「まさか·····!」


ここはナタールの一領地を治める領地主・モハマドの豪宅。
犯行の手口は、最近話題で持ち切りになっている奴らと酷似している。顔を見合せた兵士たちは、影もなく消え去った犯人を諦め、次に主の元へと向かった。


「領主様、ご無事ですか!」


寝室は酷い散らかりようだった。
"例の奴ら"の仕業か───推測した時、暗闇から何かが起き上がった。
四等身にはこれでもかというほどの贅肉が詰め込まれ、毛ひとつ生えない頭皮には、この地の権威の象徴、100カラットのルビーレッドが飾られている男。

この邸宅の主、モハマドだ。


「領主様!この暴動は、恐らく最近話題に上がっている、義賊の·····」

「黙らんか!!!」


憤慨する顔は彼の権威に負けず劣らず激しい赤色だ。


「何が義賊じゃ、人様のモノを盗んでは持ち去る、奴らはただの盗っ人どもだ!!!」


怒号が終わる前に庭園で炎が上がった。
通称、足止めの着火だ。モハマドは飛び上がりざま自身の頭を押さえつけ、兵士達を振り返った。


「と、と、捕らえよ!!!あやつらを、1人残らず捕らえて、打首じゃ!!!」

「え·····!?·····は、ははあ!」


我先にと階段を駆け下りてゆく兵士たちを見送り、彼は再び空いた頭を撫でる。
そして安堵のため息をついた。

この際、骨董品も残飯もくれてやる。卑しいヤツらはそれで勝った気になっていれば良い。
このルビーさえあれば、好きなだけ女と食い物で遊ぶことが出来るのだ。

領地主など初めからなりたくはなかった。
親父の跡を継いで肩書きのみ継いでいるようなもの。
王族への管理書類は、全て適当に雇った者にやらせていた。

そういえば、地下の牢獄に、昨日借金の担保として預かった女がいたっけ。
本当はその借金も女目当てで作らせたのだが、これが原因なんてものはどうとでもなるのだ。
これが世の常である。


「クフフ」


乳の大きい女だった。
気は弱そうだ。女というのは若く従順であるのが1番である。
さっそく呼び出してみようか。
扉の方へ方角を変えた時、ふと、部屋が薄暗くなった。


「·····?」


月が雲に隠れたのか?
否。
この砂漠の地に、月光を強く遮るほど濃い雲など存在し得ない。


「·····!!!」

「───おっと、声を出さない方が身のためだぜ?」


振り返るより先に、視界の下でギラつくものがあった。
宝石より鋭く冷たい光。喉元には白銀の短剣が当てられていた。

まだ若い少年の声だ。
陽気でありながら妖しい声音には、容赦の余地は一切なさそうだった。


「声帯を失いたくなきゃな」























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん

古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。 落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。 辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。 ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。

お助けキャラの俺は、今日も元気に私欲に走ります。

ゼロ
BL
7歳の頃、前世の記憶を思い出した。 そして今いるこの世界は、前世でプレイしていた「愛しの貴方と甘い口付けを」というBLゲームの世界らしい。 なんでわかるかって? そんなの俺もゲームの登場人物だからに決まってんじゃん!! でも、攻略対象とか悪役とか、ましてや主人公でも無いけどね〜。 俺はね、主人公くんが困った時に助言する お助けキャラに転生しました!!! でもね、ごめんね、主人公くん。 俺、君のことお助け出来ないわ。 嫌いとかじゃないんだよ? でもここには前世憧れたあの子がいるから! ということで、お助けキャラ放棄して 私欲に走ります。ゲーム?知りませんよ。そんなもの、勝手に進めておいてください。 これは俺が大好きなあの子をストーkじゃなくて、見守りながら腐の巣窟であるこの学園で、 何故か攻略対象者達からお尻を狙われ逃げ回るお話です! どうか俺に安寧の日々を。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

処理中です...