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二章
re.《435》真紅の薔薇
しおりを挟む開放的な庭の雰囲気は、普段の臆病な感覚を麻痺させるらしい。
木になっている一際鮮やかなバラの花を見て、いつの間にか口元が綻んでいた。
「あそこになっているのは、ルシフェル様みたい」
目線で指してから、ハッとする。
花ひとつが唯一無二の聖下に似ているなんて、冒涜に値するのではないだろうか。
「どれ?」
聞き返してきた親しげな声に慌てて首を振る。
「ぁ·····違·····」
「俺には分からないな」
彼は特に怒る素振りもない。
それどころかこちらの目線に合わせて行方を探す。
穏やかな表情だ。
光の降り注ぐ白い肌が美しい。この世のものとは思えぬ鋭くも優雅な横顔に見とれていたら、それがふとこちら見振り返った。
「へ」
ふわりと浮いた身体が優しい太陽を浴びる。
抱き上げられたのだ。
まるで軽いものを持ち上げたように重力を感じさせない腕。
「指してみて」。そう告げてきた声の通り、ミチルはそっと腕をのばし、例の薔薇を指差した。
不意に風が吹いた。
びっくりして白いタキシードの肩口へ手を添える。
そして、今日初めて彼と見つめ合う。
宝石よりも赤く鮮やかな瞳だ。
凛とした佇まいが薔薇を思わせるが、これでは比べ物にならない。
「ぁ、の」
こちらを見つめたままの眼差し。
思わず言葉をなくす。
「甘い香りがする」
「·····ぁ·····っ」
傾いた高い鼻が首筋に近づく。
触れてはいない。花の香りを嗅ぐようなそれに、動けなくなってきゅっと目を瞑る。
(だめ)
耳が出てしまいそうだ。
浅くなった呼吸を調整しようとする腹に彼の手が添えられてる。それが何故かすごく恥ずかしくて、益々呼吸の仕方がわからなくなる。
「ミチル」
すぐ耳元だった。
震えるまつ毛のすぐ先に深紅の輝きがあった。
そんなわけないのに、不埒な予感に、身体が熱くなる。
「ゃ、ぁ」
「·····ん?」
「ルシ、フェ·····さま、」
「ミチル·····」
名前を呼ぶのは、艶やかな甘い男の声。
彼が自分にだけ注ぐ音色だ。
何故かそうわかる。
「そんなふうに呼ばないでくれ」
(甘い匂い)
大人っぽくて切ない香りに、頭がクラクラする。
「ルシでいい。敬称も敬語も要らない」
「·····でも·····───ッ」
太ももの下の手が動いた。
それだけでおかしいくらい震え上がってしまって、心臓が早くなる。
「名前を」
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